
第1刷:1984年12月20日 第21刷改版:2008年8月1日 第23刷:2024年2月25日
単行本発行:1982年3月 新潮社
最近になって何度目かの再評価ブームが起こっている有吉佐和子の最後の書き下ろし長編小説。
『非色』、『複合汚染』、『恍惚の人』など、社会問題を扱った代表作と比べると、非常にエンターテインメント色の濃いサスペンス・ミステリーである。
新劇の大女優・八重垣光子、歌舞伎界の大御所・中村勘十郎が主演する帝劇の舞台公演を1カ月後に控え、演出家の大御所・加藤梅三が突如降板を申し入れる。
脚本家の小野寺ハルは、離婚した元演出家で、現在は流行ミステリー作家の渡紳一郎に加藤の代役を依頼。
八重垣を抱えた松宝劇団の重役、東劇の支配人に自宅にまで押しかけられた渡は、渋々ながらも演出を引き受けることを承諾。
突貫工事も同然の稽古の末、舞台が大評判となって連日大入満員となっていた最中、主演の八重垣を殺されたくなければ2億円を用意しろ、という脅迫電話がかかってくる。
読み進めるうち、突拍子もない事件の設定や隠れた犯人像への興味以上に、帝劇の舞台や興行の内幕、様々なトラブルに翻弄される人間ドラマにグイグイ惹きつけられる。
大女優と歌舞伎役者の意地の張り合い、大スターに虐げられた付人やプロムプターの葛藤、その周りで右往左往しながら、何とか舞台を成功させようとする劇場や劇団の思惑が絡み合って、この人たちはいったいどうなってしまうんだろうとハラハラしないではいられない。
劇中劇の舞台が男装の麗人として知られた歴史上の人物・川島芳子を主人公とした作品であることも、本作を一際面白くしている要因のひとつ。
実在の芳子は李香蘭や水谷八重子と親交があり、作中の光子が戦時中の満州で慰問公演を行った際に芳子と会った思い出を振り返る場面など、読んでいてゾクゾクさせられた。
プロムプターにセリフを入れられながら、芳子が乗り移ったかのようなアドリブを連発する光子を、勘十郎もまた真っ向から受けて立ち、時に観客を熱くさせ、時に爆笑を巻き起こす中、ダイナミックな演技合戦を繰り広げる。
そういう大芝居と脅迫事件が、有吉一流の力技的ストーリーテリングにより、同時並行で描かれるのだから面白くないわけがない。
ただひとつ、残念だったのは、肝心の犯人の人物像が最後までモヤモヤとしたヴェールに包まれたまま、今ひとつわかりにくかったこと。
しかし、これは『悪女について』と同様、有吉が読者の想像に任せるべく、意図してキャラクターをぼやかせたのかもしれないが。
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