『「俳優」の肩越しに』山﨑努😁😭🤔🤓☺️

文藝春秋 文春文庫 定価870円=税別
第1刷:2025年1月10日
初出連載:日本経済新聞朝刊 2022年8月1日〜31日
単行本発行:2022年11月 日本経済新聞出版社

僕が10代の頃からテレビドラマや映画を追いかけるように観ていた俳優・山﨑努さんの自伝的エッセイ。
帯には「自伝」とあるが、もともと日経新聞に連載されていた短文を1冊にまとめたものなので、本格的な自伝というよりは、エッセイ集のような印象が強い。

力まず、畏まらず、しかし、そこかしこにハッとさせられる言葉を織り込みながら、自分の越し方行く末を淡々と綴ってゆく筆致に、山﨑さんの人柄と円熟の境地を感じる。
すでに88歳(僕の父親が亡くなった年齢)、大病を患ったばかりでもあり、枯淡の域に入っているかのかな、と思いながら、読み進めていたら、まだまだ沸るような情熱にぶつかる一文もあった。

自分の演技の真髄を語った「もやもや」という章で、山﨑さんはこう書いている。

〈僕のやりたかったのはただ一つ、整頓され練り上げられた演技以前にある「もやもや」した気持ちを表現したいということ。〉

〈言葉にする以前のもやもやした感情、あるいは突然湧きあがってくる情動といったものが人にはある。
これらは出来立てほやほやだから、まだ頭脳の検閲が済んでいない。
その分、新鮮で刺戟的。当然危険性もあるのだが。〉

山﨑さんがこの真理をつかんだのは、劇団「雲」を退団する直前の舞台公演、フェルナンド・アラバールの二人芝居『建築家とアッシリア皇帝』(1974年)に出演していた最中のことだったという。
その10年後、1983年にPARCOパート3で再演されたこの舞台を、当時大学2年生だった僕は生で観ている。

今も生々しく記憶に残っている山﨑さんの熱演の内奥と背景には、このような深淵な思想と哲学があったのかと、40年以上も経ってから驚かされ、心揺さぶられた。
個人的には、『必殺仕置人』(1973年)の念仏の鉄のコスチューム、女物の赤い長襦袢の発想の源が、少年の頃に出会った橋の下に住む「狂人」にあった、という告白も大変興味深い。

ちなみに、僕が自叙伝『ショーケン』 (2007年)の構成を手がけた萩原健一さんは、黒澤明の『影武者』(1980年)で山﨑さんにお世話になったエピソードを語っていた。
本が完成した後、萩原さんのたっての要望で山﨑さんにも献呈したところ、萩原さん宛てに大変丁寧な直筆のお礼状が封書で届いていたことが、懐かしく思い出されました。

😁🤔🤓☺️

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スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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