父親が育てた蝋梅

この距離まで近づくと、甘い香りが漂ってきます

きょうから1週間ほど、竹原で毎月恒例の帰省生活に入ります。
初日の最重要任務は、母親が施設に持ち込んだ山のような大荷物を、いったん家に引き揚げること。

「山のような大荷物」って、シャレで言ってるんじゃありませんよ。
19インチの液晶テレビとテレビ台、化粧箱と化粧台、シルバーカー、45リットルのビニール袋7袋分の衣類、ドライヤーや鼻毛カッター等の生活必需品を収めたバッグが3つ、ガラケーや眼鏡5個を入れたハンドバッグが1つ…。

これだけあったら、とても普通車やタクシーには乗せきれなくて、最低でも施設と家を3往復はしなければらない。
宅配便に頼んでみることも考えたけれど、テレビや化粧台の梱包は自分でやってくれと言われて、かえって手間がかかることが判明。

どうしたものかと地元の安全タクシーに相談を持ちかけたら、「9人乗りのジャンボタクシーを出しましょう」と言われ、この方法に即決。
普通車のタクシーを使うよりは割高でしたが、一度に持ち帰ることができてホッとしました。

そんな慌ただしい作業の最中、ふと家の前を見たら、今年も父親の育てた蝋梅が咲き、甘い香りを漂わせている。
父親が他界したことをお知らせした2022年9月24日付Blogで、僕はお父さんがこの蝋梅を剪定している写真を載せた。

この写真は、傍らにいた僕がスマホで撮影したものである。
帽子をかぶり、横顔を向けているから表情はよくわからないものの、丁寧に鋏を入れている姿が、いかにも父親らしいと思ったのだ。

しかし、父親の死後、この蝋梅は生い茂る蔓草に覆われ、まったく見えなくなってしまった。
その蔓草が枯れて、3年ぶりにまだ咲き続けていることがわかったのです。

実家じまいは、まだ当分先かな。
そんな思いが胸をよぎりました。

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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