劇場公開当時、小林信彦さんが週刊文春(GW特大号)の連載『本音を申せば』で取り上げていた一篇。
小林さんは主演女優ニコール・キッドマンの日本公開作をすべて劇場で見ているほどのお気に入りだそうで、なかなか面白そうだなと思っていたら、ちょうどWOWOWで放送されていたので録画しておいた。
キッドマン演じるヒロインが目を覚ますと、隣に見知らぬ男が寝ていて、その部屋にも家にも見覚えがない上、自分が誰なのかもわからない。
戸惑うキッドマンに、きみの名前はクリスティーン、ぼくは夫のベン、きみは20年前に交通事故に遭って以来、ずっと記憶障害を患っているのだ、と一緒に寝ていた男(コリン・ファース)が説明する。
この記憶障害の設定がミソで、その日教えられたことは理解できるのだが、一晩眠ってしまうと翌日の朝にはもうすべての記憶が失われてしまう。
パソコンに例えるなら、電源を切った途端にハードディスクが初期化され、あらゆるデータが消去されるわけだ。
夫のベンが仕事に出かけたあと、今度は家に電話がかかってくる。
恐る恐る受話器を取ったクリスティーンに、私はきみの主治医のナッシュ(マーク・ストロング)だ、ご亭主には内緒できみの記憶障害の治療を続けている、と説明する。
ナッシュはクリスティーンに、クローゼットに仕舞ってあるデジカメを取り出すように指示。
そこにはクリスティーンが自分で撮影した毎日の記録が収められており、きょうも撮影を続けるように、というのだ。
やがて、ナッシュと直接会ったクリスティーンは、自分の記憶障害の原因が交通事故ではなく、何者かに暴行を受けた後遺症であることを知らされる。
さらに、自分に一人息子がいることもわかってくるが、夫のベンはそのことについても何も説明していない。
いったい、自分の過去に何があったのか。
種明かしをされると、あっ、そういうことか、といささか拍子抜けする感もあるものの、どうしてそのことに気がつかなかったのだろう、と思わされる。
個人的感想としては、『失われた甲子園』で実際に記憶障害を持つ人間に取材した経験があるので、ご都合主義的な展開が目につく。
しかし、あくまでフィクションのミステリーとしては小林さんが評価されている通り、大変優れた作品と言っていいでしょう。
旧サイト:2016年07月1日(金)付Pick-up記事を再録、修正
オススメ度A。
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