長らく表舞台から遠ざかっていたミッキー・ロークが、自らの役者人生と重なるロートルのプロレスラーを悲哀たっぷりに演じ、高く評価された作品。
ロークはゴールデン・グローブ主演男優賞を受賞し、アカデミー主演男優賞にもノミネートされ、作品はヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を獲得した。
ローク演じる主人公ランディ・〝ザ・ジャム〟・ロビンソンは1980年代にカリスマ的な人気を誇ったレスラーで、もはやプロレスだけでは生活できなくなった現在も、地方の弱小団体のリングに上がり続けている。
ビジュアルが1980年代に人気を博したボディビルダー系のハルク・ホーガン、ランディ・サベージ、ジェシー・ベンチュラ(ただし、彼らはみんな70年代に活躍した〝スーパースター〟ビリー・グラハムのエピゴーネン)、キャラクターが同時代にカリスマ的人気を誇ったジェイク・〝ザ・スネーク〟・ロバーツがモデルであることは、プロレスファンなら容易に察しがつくだろう。
試合終了後に雀の涙ほどのギャラをもらい、トレーラーハウスに帰ってきたら家賃を滞納していたためにドアに鍵がかけられ、大家の住居に押しかけてドアをノックしても梨の礫。
仕方なく車の中で寝ていたら、朝になって近所の子供たちが群がり、プロレスごっこをしてくれとせがまれる、という出だしからして引き込まれる。
ランディが出場しているのはCZW、ROHなど、これもアメリカで実在する(した?)デスマッチ専門のインディー団体。
脚立の上から有刺鉄線やガラスの破片の上にボディプレスをしたり、ガンタッカーという工具でホチキスの歯を身体に打ち込みあったり、本職のレスラーたちが演じる流血ファイトは思わず目を背けたくなるほど。
試合前の打ち合わせの模様はもちろん、尻にステロイドを注射してウエートトレーニングをする様子も詳しく描かれており、アメリカン・プロレスの内幕を描いたモキュメンタリー(創作をミックスしたドキュメンタリー)とも言える。
とりわけ悲しくなるのは、田舎町の学校の体育館と思しき場所を借りてサイン会を開いたところ、ファンが誰も来なくて暇を持て余している無名でトシをとったレスラーたちの姿。
ステロイドの濫用で心臓発作を起こし、レスラーから足を洗うよう医者に勧められたランディは、ツテを頼ってスーパーマーケットの惣菜コーナーでレジに立つようになる。
が、自分のことを知っている客にからかわれてカッとなり、トラブルを起こしてプロレス稼業に逆戻り。
寄りを戻したひとり娘ステファニー(エヴァン・レイチェル・ウッド)にも愛想を尽かされ、子持ちのストリッパー・キャシディ(マリサ・トメイ)との付き合いも破綻。
最後は死を覚悟してリングに上がるクライマックス、エンドクレジットにかぶさるスプリングスティーンの主題歌には涙を禁じ得なかった
旧サイト:2017年09月22日(金)付Pick-up記事を再録、修正
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