20世紀初頭におけるアメリカ南部の退廃した生活と犯罪を描いたノーベル賞作家の名作短編集。
たまたま神楽坂の文悠で見かけ、何となく手に取って買う気になったのだが、本書をじっくり読んでみると、僕が傾倒していたリチャード・フォードやラテン・アメリカの作家たちがフォークナーに強い影響を受けていたことがよくわかる。
『嫉妬』Jealousy
あまりにもストレートなエンディングがショッキングなようでもあり、拍子抜けのようでもあり。
現代の作家が同じ手法を使ったら「ヒネリが足りない」と批判されるでしょうね。
『赤い葉』Red Leaves
昔はアメリカ先住民の首長が亡くなると、奴隷として支えていた黒人も殺されて一緒に埋葬されることになっていた、という何ともおぞましい風習を描いた作品。
ラテン・アメリカ文学のファンなら、ガルシア=マルケスやホセ・ドノソの作風を思い起こすはず。
『エミリーにバラを』A Rose for Emily
これにもマルケス、ドノソ、それにエルネスト・サバトの作品に似た匂いを感じる。
フォークナーはハリウッド映画の脚本も書いていただけあって、ミステリ仕立ての展開もまことに巧み。
『あの夕陽』That Evening Sun
一人称の語り手がまだ9歳の男の子、もしくは成人男子が9歳の頃の記憶を辿って展開する、という非常に実験的かつ前衛的手法が際立っている。
それにしても、ナンシーが恐れおののくならず者の夫ジーズアスは実在していたのか、彼女の見た幻に過ぎなかったのか。
『乾燥の九月』Dry September
ハリウッド映画でもよく題材にされる白人たちによる黒人リンチが描かれている。
白人たちがホワイト・プア(白人貧困層)と呼ばれる社会的落伍者で、黒人男性による白人女性へのレイプが、実は30代後半の女性側の欲求不満による妄想ではないかと匂わせているところがミソ。
『孫むすめ』Wash
ホワイト・プアよりもっとひどいホワイト・トラッシュ(白人の屑)のワッシュが自暴自棄となって破滅への坂道を転げ落ちていく。
実は最初、ワッシュを黒人と思い込んでいて、完璧に誤読してしまいました。
『バーベナの匂い』An Odor of Verbena
父親を殺され、旧時代的な仇討ちを期待されていた若者が自らの正義と価値観を貫き、仇敵を追い詰めながらも殺そうとしない。
同じ段落の中で現在、過去、未来を行ったり来たりする手法は映画のカットバックを思わせ、今読んでも実に面白く、効果的でもあり。
『納屋は燃える』Barn Burning
10歳の少年の視点から、強盗と放火を繰り返すお尋ね者の父親を描写した作品。
リチャード・フォードが『ロック・スプリングズ』を書く前、本作を読んでいた可能性は高そう。
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