第2次世界大戦中、ユダヤ人が大量に虐殺されたアウシュビッツ強制収容所の隣に建てられた邸宅で、豊かで幸せな生活を営む所長ルドルフ・ヘス(クリスティアン・フリーデル)一家の姿を描いた作品。
収容所の塀の向こう側からユダヤ人たちの悲鳴や看守の怒鳴り声が日常的に聞こえてくる中、妻ヘートヴィヒ(ザンドラ・ヒュラー)や子供たちも平然と暮らしているところが、最初のうちは何とも不気味に感じられる。
アメリカ映画におけるナチスの将校や兵隊は、ユダヤ人的視点から残虐で冷酷な悪鬼のように描写されてきたが、本作のヘスは家庭に帰るとあくまでも良き夫であり父親だ。
妻や子供はそんなヘスが行っている「焼却」もごくまともな「仕事」であると認識しているらしく、ヘスがアウシュビッツから転勤するよう内示を受けると、妻は住み慣れた邸宅や自然環境に恵まれた土地を離れるのは嫌だと猛反対する。
こういうごく普通の人間たちが歴史に残るホロコーストを行ったのだという現実に、現代に生きるわれわれは曰く言い難い恐怖を感じないではいられない。
それが監督、脚本を手がけたジョナサン・グレイザーの狙いでもあるのだろう。
しかし、イスラエルがガザで空爆によるパレスチナ人の虐殺を続けている今、この映画を観ると、今更ナチスのヘスを取り上げることにどういう意味があるのか、少々首を捻りたくなるのも確か。
今こういう映画で取り上げるべきはイスラエルのネタニヤフ首相ではないかと、いささか見当違いのイチャモンと受け取られることは承知の上で、あえて言っておきたい。
オススメ度B。
A=ぜひ!🤗😱 B=よかったら😉 C=気になったら🤨 D=ヒマだったら😑