『カッコーの巣の上で』(WOWOW)🤗😱

One Flew Over the Cuckoo’s Nest
133分 1975年 アメリカ=ユナイテッド・アーティスツ
日本公開:1976年

映画ファンを自認している割に観損ねている名作は結構多く、アカデミー賞で作品賞、主演男優・女優賞など主要部門5冠を達成した本作もその1本。
今回はWOWOWのジャック・ニコルソン特集として放送されたので、慌てて録画し、執筆の合間を縫ってじっくり鑑賞しました。

内容はよく知られている通り、刑務所での強制労働を嫌って精神異常を装い、精神病院へ移された主人公マクマーフィー(ニコルソン)が、非人間的な管理体制に怒り、反乱と脱走を企てるという物語。
冷徹な看護婦長ラチェット(ルイーズ・フレッチャー)、チーフ(ウィル・サンプソン)をはじめ個性的な入院患者のキャラクターも面白く、彼らはいったいどうなってしまうのか、結末が察しられてもラストまで引っ張られる。

いま振り返ると、この作品はアメリカン・ニューシネマ最後の傑作であり、集大成的作品だったと言っていい。
刑務所同然の病院から脱走寸前までいきながら、最後のあと一歩を踏み出せない主人公の優柔不断さ、そのために病院の管理体制に組み敷かれて植物人間同然にされてしまう過程は、ベトナム戦争時代にニューシネマで描かれてきたアメリカ社会に対する批判、そうした時代だったからこそ自由と幸福を追い求める根源的な人間性を再認識させないではおかない。

なぜ「最後の傑作」かというと、本作の翌年、1976年に『ロッキー』が公開されるや、ベトナム後遺症や社会運動など、厭世的な雰囲気に倦んでいたアメリカ社会と国民の意識は、これまでの反動で一気にアメリカンドリームの復活へと振れるからである。
1977年には『スター・ウォーズ』第1作が公開され、ハリウッドもニューシネマ以前の娯楽超大作路線に立ち返り、本作のような痛みを感じさせる人間ドラマは過去のものになってしまう。

ちなみに、本作で初めてオスカーを獲得したニコルソンは、「俺は『スター・ウォーズ』が大嫌いだ!」とドキュメンタリー映画のインタビューで語っている。
そのニコルソン入魂の名演が、今時の映画ファンの心にどこまで響くか、これはやっぱり個人差があるでしょうね。

オススメ度A。

A=ぜひ!🤗😱 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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