帯のコピーにある通り、ヴィム・ヴェンダース監督、役所広司主演の映画『PERFECT DAYS』(2023年)で、役所演じる主人公・平山が就寝前に読んでいた文庫本の一冊。
アパートに転がり込んできた姪ニコ(中野有紗)がこの本を読み、平山にこんな感想を打ち明ける。
「この『すっぽん』って話のヴィクターって男の子、私かもしれない。
気持ち、めっちゃわかるってこと」
このくだりが評判を呼び、3刷目の重版に結びついたという。
影響を受けやすい僕も、さっそく紀伊国屋書店で買ってきて熟読しました。
『かたつむり観察者』The Snail-Watcher
昔見たホラー映画、ゴカイが大量発生して人間を襲う『スクワーム』(1976年)を思い出した。
ああ、気持ち悪い。
『恋盗人』The Birds Poised to Fly
片想いしている女性からの手紙を待っている主人公が、アパートの隣室の郵便受けに間違って入れられているのではないかと思い、こっそり手紙を盗み出して開けてしまう。
切なさいっぱいの作品で、個人的にはこれが一番好き。
『すっぽん』The Terrapin
ニコのように、ヴィクターの気持ちがよくわかる、という読者は多いでしょうね。
僕もすっぽんが可哀想になりました。
『モビールに艦隊が入港したとき』When the Fleet Was In at Mobile
こちらは女性の視点に立った切ないストーリー。
ちょっとロッド・サーリングに似た味わいを感じさせる。
『クレイヴァリング教授の新発見』The Quest for Blank Claveringi
最初の作品に出てきたかたつむりが巨大化し、捕獲にやってきた主人公の老教授を襲う。
面白いことは面白いが、オチが読めてしまうのが食い足りない。
『愛の叫び』The Cries of Love
年老いた女友だち同士の静かな確執を描いた不気味な作品。
ロバート・アルドリッチのサスペンス映画『何がジェーンに起こったか?』(1962年)を思い出した。
『アフトン夫人の優雅な生活』Mrs Afton,among Thy Green Braes
精神分析医の元に通う有閑マダムの正体が徐々に明らかになってくる過程が怖い。
筋立てはサスペンス風だが、これはむしろチェーホフの短編のように純文学の範疇に属する作品だろう。
『ヒロイン』The Heroine
不幸な家庭に生まれ育った主人公が、幸せな家庭のベビーシッターとして雇われ、その家族にもっと感謝されたいあまり、承認欲求をエスカレートさせていく。
ハイスミスのデビュー作で、現代でも通用する本作を23歳で書き上げたとは、驚きの一語。
『もうひとつの橋』Another Bridge to Cross
イタリアの南リヴィエラを旅する主人公の男が、街で知り合い、心を許した少年に騙されてしまう。
ただ、主人公と同様、不思議に少年に対する憎しみは湧いてこない。
『野蛮人たち』The Barbarians
この主人公はそのうち、悪ガキたちに復讐され、ボコボコにされちゃうんだろうか。
そこまでの結末を書いていないところに、何とも言えない後味の悪さが残る。
『からっぽの巣箱』The Empty Birdhouse
ここに出てくるユーマは、今でいうUMAを思わせる。
恐らく、主人公夫婦の心の闇が生み出した怪物で、これからしばらく、もしかしたら一生付き纏われるんでしょうね。
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