2012年に観た劇場公開映画の中で、個人的には一番の収穫だった。
アカデミー賞レースをにぎわせた『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』よりも『ドラゴン・タトゥーの女』よりもこっちのほうが断然面白い。
人間が25歳までしか生きられない近未来社会、という設定だけなら、これまでにも同工異曲のSFスリラーは少なくなかった。
本作では時間が通貨の代わりになっており、25歳から何年生きられるかは個人の〝貯蓄〟次第、というところがミソ。
つまり、預金の額がそのまま寿命を迎えるまでの時間なのだ。
100年以上の時間を溜め込んだ富裕層は優雅で怠惰な不老不死の日々を過ごし、1日分の時間にも不自由している貧困層は文字通り明日をも知れぬ暮らしを送っている。
世界で問題視されている格差社会の形態が極限まで進んだらこういうことになるのかと思わせる設定で、まったくよく考えたものだと感心させられた。
ストーリーの下地になっているのは『俺たちに明日はない』(1967年)以降、アメリカ映画の物語原型として定着している〝ボニー&クライド〟。
スラム街に暮らす貧困層の青年が一念発起、恋人になった富裕層の娘と手に手を取り合って〝時間強盗〟を重ね、その時間を寿命の限られた貧しい人々に分け与えてゆく。
彼ら自身が持ち合わせている時間には限りがある。自分たちが生きるためにも、彼らは強盗と逃亡を繰り返しながら延々と走り続ける。
残り少ない自分たちの時間を補給するため、即ち1秒長くでも生き続けるために、ただひたすら走って走って走り続けるしかない。
彼らの姿は、至極単純な人生の真理を思い出させてくれる。
人生のある局面において、生きることとは走ることなのだ。
映画を見ていて、ただがむしゃらに走る姿に感動を覚えたのはいつ以来だろう。
クライマックスはちょっと鳥肌が立った。
ジャスティン・ティンバーレイク、アマンダ・セイフライドはどちらも好演で、2人を追う〝時間監視員〟キリアン・マーフィの存在感も絶妙の味付けとなっている。
監督・脚本・製作の1人3役でこの世界をつくりあげたのはアンドリュー・ニコル。
『トゥルーマン・ショー』(1998年)の脚本・製作、『シモーヌ』(2002年)の監督・脚本・製作など、アイデア勝負の快作を連発している特異な映画人である。
オススメ度A。
A=ぜひ!🤗😱 B=よかったら😉 C=気になったら🤨 D=ヒマだったら😑
旧サイト:2012年03月14日(水)Pick-up記事を再録、修正