個人的には、郷里へ帰るたび、ふと様々な場面が記憶に蘇ってくる作品。
映画史的にはアメリカン・ニューシネマの隠れた傑作である。
ニューシネマというと、日本ではアンチ・ヒーローを主役に据えた『俺たちに明日はない』(1967年)、『イージー・ライダー』、『明日に向って撃て!』(1969年)などのほうが馴染みが深く、本作はあまり顧みられることがない。
しかし、公開当時はニューヨーク映画批評家協会賞作品賞を受賞、アカデミー作品賞や脚本賞にノミネートされており、米本国では極めて高い評価を受けている。
ジャック・ニコルソン演じる主人公は音楽一家のお坊ちゃんで、自らもピアノに非凡な才能を持ちながら、居心地の悪さに耐えかねて家を出た若者。
石油採掘現場で働きながらダイナーのウェイトレス(カレン・ブラック)と同棲し、妊娠したと聞かされると彼女を遠ざけ、行きずりの女と情事を重ねる。
そうした中、久しぶりに会った姉に、父親が脳梗塞で倒れたことを知らされ、久しぶりに実家に戻ると、家族は昔と同じように温かく迎えてくれた。
ところが、そんな肉親の愛情をニコルソンは素直に受け入れることができず、秘かに兄嫁と関係を結び、ふたりで家を出ようと誘って拒絶される。
父親の面倒を見ているヘルパーの男が姉と寝ている現場を見て激高し、ヘルパーの男に殴りかかったら逆にたたきのめされる場面が痛々しい。
いたたまれなくなったニコルソンは車椅子を押して父親とともに海辺に行き、何の表情も浮かべていない父親に涙ながらに告白する。
「この家は、ぼくがいなければすべてうまくいくんです」
のちにセックス・シンボルとしてもてはやされるようになってからよりも、若いころのニコルソンの魅力と本領はこういう役と演技にあったのではないだろうか。
幕切れはとても胸に沁みる。
こういう映画にジーンとくる感性はずっと失いたくないね。
オススメ度A。
A=ぜひ!🤗😱 B=よかったら😉 C=気になったら🤨 D=ヒマだったら😑
旧サイト:2013年10月26日(土)Pick-up記事を再録、修正