著者デヴィッド・ハルバースタムは『男たちの大リーグ』(”Summer of ’49″/宝島社 1993年、常盤新平訳)を世に出したとき、「私は子どものころ、野球記者になりたかったんだ」と話している。
自著のパブリシティでもあったのだろうが、実際に作品を読んでみると、当時のメジャーリーグの実情と選手の人物像を描破する筆致はときに鬼気迫るものがあり、積年の夢を実現させようとする執念がひしひしと感じられた。
本書はその後日談とも言うべきメジャーリーグのノンフィクションである。
1949年を舞台にした前著では我が世の春を謳歌していたヤンキース王朝が、15年後の1964年、人種差別の崩壊に伴う黒人選手の流入という時代の趨勢についていけず、保守的で古臭い前時代の球団へと凋落するさまが描かれている。
そのヤンキースの向こうを張り、積極的に黒人選手を引き入れていたのがカージナルス。
1964年のワールドシリーズにおいて歴史に残る力投を見せ、ヤンキースをねじ伏せたボブ・ギブソンは、まさにメジャーリーグのターニング・ポイントを象徴する人物だった。
当時のチームメートが、メジャーきっての中堅手と言われた、やはり黒人のカート・フラッド。
のちにフリーエージェント制度のきっかけをつくった人物で、現代のメジャーリーグの基盤を築いたのは彼ら黒人たちだった、ということをハルバースタムは強調している。
本書ではまた、ヤンキースのミッキー・マントル、ロジャー・マリス、ジム・バウトンといった歴史に残るメジャーリーガーたちはもちろん、首脳陣や経営者の群像も生き生きと描写されている。
とりわけ、ラルフ・ホークがヤンキースの監督からゼネラルマネージャー(GM)へと転身した途端、契約更改で年俸を値切り始めて選手たちから総スカンを食うくだりが面白い。
さらに、カージナルスのオーナー、ガッシー・ブッシュと頑迷な上司フランク・レインの板挟みになった揚げ句、球団を追い出されてしまうGMのビング・デヴァイン。
ブッシュに辞表をたたきつけてカージナルスからヤンキースの監督に転身しながら、逆に寿命を縮めてしまったジョニー・キーンなど、日本ではほとんど知られていない人物像とエピソードの数々が満載である。
ちょっと羨ましいなと思うのは、前著に引き続き、当時健筆を揮っていた記者たちのエピソードも実名入りで紹介していることだ。
アメリカのスポーツ・ノンフィクションであちこちに出てくる〝国民的ライター〟ジミー・キャノンがまたしても登場し、いつもの頑固親父ぶりを発揮している。
独立したコラムニストが育ちにくいわが国のスポーツ・ジャーナリズムは、こういう書き手の側に逸話に乏しい。
大谷翔平の活躍に熱狂している今時の若いファンにも読んでほしい作品です。
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旧サイト:2011年06月26日(日)付Pick-up記事を再録、修正