『ミスター・ジャイアンツ 勝利の旗』(BS日テレ)😉

90分 1964年 東宝

2011年11月11日日曜、突然BS日テレで放送された珍品。
単なるファン向けのプログラム・ピクチャーかと思ったら、これが意外に面白かった。

巨人が優勝と日本一を達成してV9時代の幕開けとなった1963年のシーズンをベースに、90分の娯楽映画に仕立てている。
主役の長嶋茂雄をはじめ、王貞治、広岡達朗、藤田元司、柴田勲、国松彰、武宮敏明、さらに監督の川上哲治や西鉄の中西太が本人役で登場。

ただし、いまどきのよくあるテレビドキュメンタリーのように、車中や食事をしながらのわざとらしいインタビュー映像が出てくるわけではない。
長嶋さんをはじめ、誰も彼もあくまでもフィクションとして本人役を演じ、脚本に書かれたセリフを読んで、れっきとした「演技」を披露しているのである。

これがもう、いま観るとツッコミどころ満載なのですよ。
例えば、広岡さんと柴田さんの会話はこんな具合。

広岡「おい、柴田、おまえ、いくつ盗塁してる?」(チームメートなのに知らないのかよ)
柴田「さあ、30個ぐらいじゃないですか」(自分の盗塁ぐらい覚えとけよ)
広岡「いつ見てもいい足してるな」(両手で柴田の太腿をナデナデ。おいおい)
柴田「カモシカの足ですからね」(何うれしそうにしてるんだよ)
藤田「なーにが、カモシカの足でツイストか!」(そう言って腰をクイクイッ…藤田さん!)

藤田さんはクライマックスでも大活躍。
自分がケガをして療養中、自宅でテレビ中継を見ていると、長嶋さんが阪神戦で死球を受け、左手の薬指に裂傷を負ってしまった。

包帯の上から鮮血が溢れ出し、苦痛に顔を歪める長嶋さん。
医務室に付き添って「大丈夫ですか、チョーさん!」と覗き込む王さん。

あのね、「大丈夫ですか」じゃないでしょ、早く病院に行きなさいよ。
大体、デッドボールでそんなに血まみれになっているところなんて見たことないぞ。

一方、テレビの前で居ても立ってもいられなくなった藤田さん、書生(なんと舟木一夫)に命じ、自分のかかりつけの名医を大阪へ連れて行くように命じる。
「ボヤボヤしてはおれん。空港までパトカーを使えるように手配するから。飛行機にも待っていてもらうよ」

おいおい、いくら巨人のエースとはいえ、一介のプロ野球選手にそんなことができるのか。
こういうシナリオが平気でまかり通っていたのだから、当時の巨人軍の威光たるや、庶民にとっては国家権力にも等しいものがあったんでしょうね。

なお、なんで新幹線を使わないんだろう、と思ったら、63年はまだ開通してませんでした。
藤田さんはなかなかの好演で、広岡さんのキャラクターも結構明るい。

それに引き換え、長嶋さんは妙に暗いんだよね。
下北沢の長嶋さん自宅へサインをもらいにきた少年が、お手伝いさんに門前払いを食わされ、表通りに出た途端に車に跳ねられて即死。

以後、長嶋さんはガックリ落ち込んで大変なスランプに陥ってしまう、というストーリーだからか、後半は始終深刻な顔をしている。
長嶋さんを主役に担ぎながら、なんでこんな辛気臭いお話にしちゃったんだろう。

脇を固めるプロの役者も豪華版で、主要キャラがフランキー堺、伴淳三郎、淡島千景、佐原健二、沢村貞子、大空真弓。
さらにチョイ役で三木のり平、仲代達矢、宝田明、西村晃、池内淳子、加東大介、アイ・ジョージ、伊東ゆかり、香川京子、草笛光子、桜井浩子と、オールスター超大作並みの顔ぶれである。

こんな映画はもうできないだろうなあ。
僕がBS日テレで初めて観たころは一回きりの放送だったけれど、2021年ごろからネット配信が始まり、今年になってDVD化もされたそうだから、興味のある方はぜひどうぞ。

オススメ度B
(ただし巨人&長嶋ファンには特A、プロ野球ファンにはA)

A=ぜひ!🤗😱 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑

旧サイト:2012年11月12日(月)付Pick-up記事を再録、修正

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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