1934年、ベーブ・ルースやルー・ゲーリッグが来日して行われた日米野球は、野球ファンにとっていまや歴史教科書の中の出来事である。
本書はその球史に残るイベントのディテールを掘り起こし、太平洋戦争に向けて傾斜しつつあった当時の日本社会とリンクさせて描いている。
正力松太郎がルースの招聘に執念を燃やし、鈴木惣太郎が奔走していた最中、日本では軍人たちを中心とした右派勢力が台頭していた。
そうした不穏な時代に来日しながら、いや、日本が不穏な空気に包まれていたからこそ逆に、主役ルースの存在は、本書の中でなお一層新たな輝きを放っている。
ルースがこのとき、アメリカチームの兼任監督を務めていたことは、本書を読んで初めて知った。
かねてから現役を引退して監督になることを熱望していたルースは、日米野球における采配の経験と実績を足がかかりに、メジャーリーグでのステップアップを狙っていたのだという。
日本でのパレードや歓迎会の過密日程に追われ、強行軍の移動や初めて泊まる日本式旅館などにも大いに戸惑いながら、ルースはひとたびグラウンドに姿を現すや、常にファンに愛想を振りまくことを忘れない。
降りしきる雨の中でも、長靴を履いてプレーしたり、番傘をさして一塁を守ったり。
そうした一挙手一投足の端々から、不世出のスーパースターだったのだということがひしひしと感じられる。
日米が戦争へと突き進んでいたこのときもなお、ルースはルースであった。
(日本へ向かう客船の中で、ルー・ゲーリッグの目を盗み、ゲーリッグ夫人と〝密会〟していた可能性があるというゴシップも含めて)
もうひとつ、捕手を務めたモー・バーグの役割に関する新解釈も大変興味深い。
バーグはカメラマニアで、日米野球の最中に日本の都市を撮影して回り、その映像が空襲に利用されたことから、実はOSS(CIAの前身)のスパイだったという説が定着している。
しかし、著者のフィッツは、様々な資料を詳細に分析、検証した結果、バーグがOSSに提供することを目的に日本の風景を撮影をしていたとは考えられないと結論づけている。
はるか彼方の昔話のようでいて様々な新発見に満ちており、スポーツノンフィクションの名作として記憶されるべき労作である。
あえてイチャモンをつけるところがあるとすれば文章で、一つの段落の中に「…だが」、「しかし」、さらに「だが」と、逆接の接続詞が頻出するのでいささか読みにくい(原文のせいか翻訳によるものかはわからないが)。
また、タイトルは原題の通り、『万歳ベーブ・ルース』、もしくは『「バンザイ!」ベーブ・ルース』としたほうがカッコよかったと思う。
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旧サイト:2013年12月11日(水)付Pick-up記事を再録、修正