クリント・イーストウッド監督作品としてはもちろん、現代のミュージカル映画としても屈指の傑作と言っていい1本ではないだろうか。
主人公は1950年代に全米で人気を博した伝説のバンド、フランキー・ヴァリ&ザ・フォー・シーズンズで、彼らの伝記をミュージカル化した2005年の舞台が原作となっている。
物語はバンド名に沿って4つのパートに分かれており、バンドのメンバーが順番に語り部を務め、観客に向かって語りかける、という構成が取られている。
最初にバンドのリーダー兼リード・ギター、トミー・デヴィート(ヴィンセント・ピアッツァ)がこの進行役として登場し、彼とリード・ボーカルのフランキー・カステルチオ(のちのヴァリ、ジョン・ロイド・ヤング)がニュージャージーの床屋で働きながらキャバレーのステージに立っていた10代のころが描かれる。
トミーとフランキーは床屋の常連であるマフィアのジップ・デカルロ(クリストファー・ウォーケン)に可愛がられており、この人物もジェヴェーゼ・ファミリーというれっきとした実在の組織の大幹部。
日本で言えばバタヤンこと田端義夫、美空ひばりに山口組3代目・田岡一雄が実名で登場しているようなもので、そういうことを臆面もなくやってのけられるところにアメリカのエンターテインメント業界の懐の深さを感じる。
主役のフランキーを演じているのは、ブロードウェイ初演のオリジナル・キャストと同じジョン・ロイド・ヤング。
さすがミュージカル俳優だけあって耳から胸へ突き刺さるような声をしており、ミュージカルの苦手な僕でさえ思わずうっとりさせられるほどの歌唱力だ。
トミーから語り部を受け継ぐのは、のちに楽曲の作詞作曲を一手に引き受ける最後の最年少メンバー、キーボードのボブ・ゴーティオ(エリック・バーゲン)。
このゴーティオが最初にヒットさせた”Short Shorts”(テレビ朝日『タモリ倶楽部』のオープニングにかかる曲としてお馴染み)が鳴り響くあたりからフォー・シーズンズの出世物語が本格化し、見ているこちらもぐいぐい引き込まれてゆく。
しかし、ゴーディオがフランキーと急接近したことから、バンドのリーダーもフランキーを発掘したのは自分だという自負を持つトミーが嫉妬。
やがてトミーがギャンブルで莫大な借金を抱えていたことが発覚し、後ろ盾デカルロの力を持ってしてもどうにもならず、トミーはフランキーたち残りのメンバーが借金を返済するまでラスヴェガスに軟禁されることになってしまう。
本作が非常に見応えがあるのは、ミュージカルとしての完成度が高いことはもちろん、このような日本ではとても触れられないだろう内幕のタブーを赤裸々に描いているからこそ。
1997年、フォー・シーズンズのロックの殿堂入りが決定、紆余曲折を経てすっかり老け込んだ4人が顔を合わせるエンディングの感動は近ごろ屈指の味と出来栄え。
オススメ度A。
A=ぜひ!🤗😱 B=よかったら😉 C=気になったら🤨 D=ヒマだったら😑
旧サイト:2016年09月24日(月)Pick-up記事を再録、修正