『爆弾小僧 ダイナマイト・キッド』(DVD-BOX)🤗😱

596分 2014年 発売元:VIDEO PACK NIPPON 販売元:TCエンタテインメント 定価:18600円=税別
制作、著作:テレビ朝日、新日本プロレスリング 

ジュニア・ヘビー級の伝説的存在となり、数多くのエピゴーネン(追従者)を生んだレスラー、ダイナマイト・キッドの映像による評伝の決定版。
新日本プロレスから出ているDVD-BOXの中では、これが一番面白く、かつ感動的である。

ディスク4枚のうち、新日本が制作し、流智美氏が監修しているのはディスク1&2。
冒頭、2年越しの交渉の末にようやく受諾されたというキッドのインタビュー映像から始まる。

車椅子生活になってすでに20年以上が経ち、昨年脳卒中を起こしたキッドは、もはやまともな会話ができない。それでも、「ヤー」「ノー」「アイドン・ノー」「グッド」「オールウェイズ」など、キッドはごく短い単語で自分の感情をはっきりと伝えており、まことに痛々しい姿ながら、見ているうちに目を離せなくなる磁力のようなものを感じる。

試合の映像は、新日マット初登場から藤波辰巳、初代タイガーマスクとの抗争、さらに小林邦昭やザ・コブラとのファイトまで、主な対戦カードはほとんど網羅されている。
すでに何度も見ているのに、その迫力とスピード感はいまも一向に色褪せていない。

貴重なのは、初代タイガーとの抗争時代、星野勘太郎にいわゆるシュートを仕掛けられ、お灸をすえられた一戦の映像。
また、タイガー引退後、WWFジュニア・ヘビー級王座決定リーグ戦などでからんだ従弟デイビーボーイ・スミスとのファイトも面白い。

その合間に、キッド本人をはじめ、藤波、タイガー(佐山聡)、小林、さらにプロレスラーとなったデイビーボーイ・スミスの息子のインタビューが挟まる。
大変心憎い構成で、とくにスミス・ジュニアが自分の父とキッドとの感情的な諍いを語る場面には涙腺を刺激された。

ディスク3&4はイギリスで制作されたドキュメンタリー映画”Dynamite Kid:A matter of Pride”のDVD日本語字幕版。
こちらは版権の関係もあってか、試合の映像がまったく収録されておらず、新日本プロレス制作のディスクと補完し合う関係になっている。

案内役兼ナレーターはキッドの影響を受けたレスラーのひとりで、新日本に参戦した経験もあるデイヴィー・リチャーズ。
彼がキッドの自伝『ピュア・ダイナマイト』(2001年、下画像①)を朗読し、その記述が真実か否か、当時の関係者たちにインタビューを行い、仔細に検証する形で構成されている。

この自伝はプロレス関係者に対して概ね批判的で、あいつは嘘つきだった、こいつは金に汚かったなどと、キッドが言いたい放題の罵詈雑言を並べている。
DVDのほうには、自伝で散々悪口を書かれたひとり、かつてカルガリー、新日本、WWFと、キッドの現役時代を通して最も親しい関係にあった〝ヒットマン〟ブレット・ハートが登場。

キッドをカルガリーに連れてきた実兄、ブルースやロンとともに、キッドがグリーンボーイだったころからどのようにして出世し、人間的に変わっていったかを振り返っている。
キッドと近い関係にあったハート・ファミリーのジム・ナイドハートやホンキートンク・マンの証言も興味深い。

ジャック・ルージョーはWWFのツアー中にキッドの度重なるイタズラに業を煮やし、手ひどい暴行を加えたと明かしている。
さらに、バッドニュース・アレン、ハーリー・レイス、ボブ・オートン・ジュニア、ブルータス・ビーフケーキ(エド・レスリー)、デモリッション・アックス(マスクド・スーパースター)、ジム・ブランゼルなどなど、日本でもお馴染みだった面々がキッドの人と成りについて、ときには懐かしそうに、ときには苦々しげに証言。

また、プロレス関係者だけでなく、いまのキッド夫人やキッドの娘、それにここでもデイビーボーイ・スミス・ジュニアがキッドに対する思いのたけを告白。
キッドがドラッグに傾斜していった経過、従弟のデイビーボーイにいかにつらく当たっていたか、そして、カルガリーの自宅で元妻に離婚を切り出され、イギリスへの片道切符を渡された経緯など、興味深くも痛切なエピソードが紹介されている。

イギリスでこのドキュメンタリー映画が公開された2013年、キッドはプロモーションのためのイベントに車椅子で出席。
久しぶりにGスピリッツVol.28(辰巳出版、下画像②)のインタビューに応じ、「プレスの取材を受けるのはこれが最後だ」と語った。

そして、日本語版DVD発売から4年後の2018年、60歳の誕生日だった12月5日に死去したことが発表された。
それから2年後の2020年7月30日、初代ブラック・タイガーのマーク・ロコが69歳で、今年9月8日には小林邦昭が68歳で亡くなっている。

初代タイガーマスク・佐山サトルのライバルだった3人が全員鬼籍に入って、いまごろは天国で思い出話に花を咲かせていることだろう。
当時の激闘に胸を震わせた昭和のプロレスファンとして、謹んでみなさんのご冥福をお祈りします。

オススメ度A。

A=ぜひ!🤗😱 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑

旧サイト:2014年10月13日(月)Pick-up記事を再録、修正

画像①
Pure Dynamite
発行:エンターブレイン 監修:ウォーリー山口 翻訳協力:今川みゆき 定価1800円=税別(古書のみ)
初版第1刷:2001年10月10日 第2刷:同年11月26日
原書発行:1999年
画像②
発行:辰巳出版 タツミムック 平成25年8月5日号 定価1200円
スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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