著者のホゼ・カンセコは1988年、オークランド・アスレチックスで大リーグ史上初の40-40(フォーティ・フォーティ=40本塁打、40盗塁)を達成した伝説的プレーヤーである。
しかし、2005年になって本書を上梓し、かねてから噂されていたドーピングに関する真相をぶちまけ、野球ファンのみならず一般社会にも大きな衝撃を与えた。
本書によると、カンセコは20歳だった1984年ごろからアナボリック・ステロイド(筋肉増強剤)の使用を開始。
アスレチックスの主力打者として40-40をマークしていたころには、ステロイドとヒト成長ホルモンの使用法と効能について、医者やトレーナーよりもはるかに豊富で詳しい知識を持ち合わせていたという。
自分で使うだけでなく、アスレチックスでチームメートだったマーク・マグワイアをはじめ、のちにメジャーで活躍するようになる選手たちにもドーピングの方法を教えていたと告白。
ジェイソン・ジアンビやイバン・ロドリゲスがステロイドを注射する場面も目撃したと書いている。
ただし、本書はプロロードレーサーのタイラー・ハミルトンが書いた『シークレット・レース ツール・ド・フランスの知られざる内幕』(作家ダニエル・コイルとの共著、2013年、小学館文庫)のような懺悔本ではない。
カンセコは終始一貫、「ドーピングはアスリートにとって正当な行為である」と主張。
「ステロイドとヒト成長ホルモンは適量と正しい使用法さえ守って使用すれば、劇的にパフォーマンスを向上させることができる」
「そうすればファンの望むよりエキサイティングなプレーとゲームを実現させられる」などと独特の持論を展開している。
ステロイドの効能(というより副作用)のひとつとして、精神的に万能感を覚えるようになる、つまり極端に気が大きくなり、「おれに不可能はない、おれには何でもできるのだ」と思い込むようになる、という症状がある。
本書を書いていた当時のカンセコがまさにそういう状態にあったようで、薬物中毒者の自叙伝であり、そういう元選手が赤裸々に描いたメジャーリーグの一時代の一断面だと思って読めば、それなりに興味深い。
カンセコは事実上メジャーリーグを追われたのち、総合格闘家に転身したり、独立リーグでプレーしたりしながらステロイドの使用を継続、2012年にはメキシカン・リーグでドーピング検査を拒否し、出場停止処分を受けた。
その後、恐らくはセックスへの悪影響から薬物の使用を断ち、現在は「やはりドーピングはダメだ」などと否定的なコメントをするようになっている。
旧サイト:2016年08月15日(月)付Pick-up記事を再録、修正
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