野球を題材としたハリウッド映画は概ね平均点が高い。
ストーリーの面白さやキャラクターの魅力以前に、スタジアムやそこに集まるお客さんたちの描写を含めて、野球の持つ雰囲気を再現するのがうまいんだよなあ、といつも思う。
メジャーリーグ史上最初(正確には人種隔離政策施行以後初)の黒人選手ジャッキー・ロビンソン(チャドウィック・ボーズマン)がブルックリン・ドジャースに入団した1947年のシーズンを描いたこの作品もしかり。
ドジャースの本拠地エベッツ・フィールドをはじめとした球場の数々、ロッカールームの光景、移動用のリムジンバス、ふだん選手が着用していた球団支給の背広などなど、そうしたディテールを観るだけでも、野球ファンなら一見の価値がある。
ただし、伝記映画としては少々疑問点が目につくのも確か。
この映画を見ている限り、球団代表兼GMだったブランチ・リッキー(ハリソン・フォード)が独断でロビンソンの入団に踏み切り、人種の壁を打ち破ったように見える。
しかし、実際には、当時のメジャーリーグでは白人選手のみによるチーム運営が頭打ちになっており、少しずつではあるが、黒人だけのニグロリーグからメジャーの選手を登用しようという声が上がり始めていた。
ロビンソンが所属していたニグロリーグ球団カリフォルニア・モナークスにも、この噂は伝わっていたという。
メジャーのスカウトが球場にやってくるたび、エースのサチェル・ペイジ、主砲兼正捕手のジョシュ・ギブソンらはいいところを見せようと躍起になっていたらしい。
のちにメジャーへのトライアウトとして行われた試合でギブソンは持ち前の打棒を発揮できず、試合自体も雨でコールドゲームになり、ついにメジャーに入れずに死んだ。
この悲劇的な経緯は『栄光のスタジアム 大リーグへの道』(1992年、劇場未公開。日本では1996年にビデオレンタル及び販売)というテレビ映画にもなっている。
そうした中でロビンソンがリッキーに選ばれた裏側には、球界におけるある種の〝政治的判断〟が働いていたのだと指摘する声もあったようだ、ということも物の本で読んだ。
ところが、いざロビンソンがドジャースと契約するとなると、メジャーの拒否反応は凄まじく、ドジャースを除く15球団が猛反対を唱え、カージナルスなどリーグ戦のボイコットまでちらつかせたという。
当時のコミッショナー、リッキーの親友でもあったハッピー・チャンドラー(ピーター・マッケンジー)は、そうした圧力に負けてはならないとリッキーを励ました。
「ロビンソンと契約したまえ。私が認める。それで戦いになるのなら、ともに戦おうではないか」と。
ところが、この『42』では1947年のシーズンの開幕直前、チャンドラーがドジャース監督レオ・ドローチャーを〝姦淫〟で1年間謹慎処分にするなど、まるでリッキーの仇敵のような描かれ方をしている。
また、実在のロビンソンは力が衰えた晩年、ニューヨーク・ジャイアンツへ突然トレードに出され、のちにこれを不服として現役引退を表明し、〝世界を変えた男〟どころか、〝世界一のワガママ男〟としてメジャーリーグ全体、及びスポーツマスコミからも袋だたきに遭っている。
と、ついイチャモンばかり書いてしまったが、A先生のようにうるさいことさえ言わなければ、オーソードックスなスポーツ選手の伝記映画であり、完成度は極めて高い。
ロビンソンを演じたボーズマンは本作の好演でブレークし、ロビンソンの未亡人や関係者にも絶賛され、黒人差別問題についての論客としても知られるようになる。
人気絶頂だったころの2020年8月23日、大腸癌のために43歳という若さで他界。
奇しくもこの日は、メジャーリーグの選手全員が背番号42のユニフォームを着用する〈ジャッキー・ロビンソン・デー〉だったことをも付記しておきたい。
オススメ度B。
A=ぜひ!🤗😱 B=よかったら😉 C=気になったら🤨 D=ヒマだったら😑
旧サイト:2013年11月19日(火)付Pick-up記事に加筆、修正