ETV特集『無差別爆撃を問う~弁護士たちのBC級横浜裁判~』(NHKEテレ)🤗😱

60分 NHKEテレ初放送:2024年8月24日PM11:00~ 制作:NHK、椿プロ

今月放送されたNHKドキュメンタリーの秀作の一本。
法的に複雑かつ深遠な問題をはらんでおり、法律音痴のA先生に的確なレビューを書けるかどうか自信がないけれど、なるべく多くの人に観てほしい作品なので、何とかやってみます。

太平洋戦争の最中、日本を空襲した米軍爆撃機の搭乗員たちは、墜落して日本軍に捕まると、「空襲軍律」に反する無差別爆撃の罪を犯した戦争犯罪者として処刑された。
しかし、日本が戦争に敗れると、米軍搭乗員たちに処刑判決を下した日本の法務官が、今度は戦勝国アメリカによって訴追されることになる。

この「BC級戦犯横浜裁判」において、アメリカ側検事は「米軍搭乗員は戦争捕虜であり、ジュネーブ条約によって保護されるべきであったにもかかわらず、日本の空襲軍律によって処刑されたことは法律違反」だと主張。
一方、被告となった日本側についたアメリカ人弁護士は「搭乗員たちが行ったのは非戦闘員に対する無差別爆撃であり、国際法に違反した戦争犯罪人の容疑者だった」と反論する。

結局、弁護側の言い分は受け入れられることなく、日本側の関係者123人が死刑判決を受けた。
ところが、その後の再審査により、72人が死刑から終身刑や重労働30年などに減刑され、当初の判決通り死刑に処せられたのは51人だったのである。

いったい、横浜裁判と再審査でどのような議論が戦わされ、半数以上の死刑判決が覆ったのか。
このドキュメンタリーは、歴史の闇に埋もれかかった問題を検証する神奈川弁護士会〈BC級戦犯横浜裁判調査研究特別委員会〉の活動を追っていく。

鍵となるのは、当時日本で制定されていた「空襲軍律」。
これは1942年、アメリカが初めて行った無差別爆撃とされるドーリットル空襲で墜落して捕えられた米軍搭乗員を裁くため制定された。

これが太平洋戦争末期の1945年、名古屋空襲に関わった米軍機搭乗員にも適用され、11人がただちに処刑されている。
軍律裁判と呼ばれるこの裁判は非公開で行われ、処刑された搭乗員たちには弁護士をつけられなかった。

当時の日本政府の法的手続きはあまりにも性急、かつ一方的で、人道的にも許されるものではないだろう。
しかし、アメリカ側は減刑を決めた再審査を通して、「無差別爆撃こそ違法」とする日本側の言い分に譲歩したようにも受け取れる。

一方で、国際法で罪と定められた無差別爆撃は、その後もアメリカが関わったベトナムで継続され、いまなおウクライナやガザで繰り返されている。
無差別爆撃、すなわち大量虐殺を法的に禁じることはできないのか、無辜の市民を殺戮する国家の前に、法はついに無力なのか、答えの出ない疑問が今も私の頭の中でグルグル回り続けている。

オススメ度A。

A=ぜひ!🤗😱 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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