『ロストケア』(WOWOW)😉

115分 2023年 日活、東京テアトル

長野県八賀市(架空の市)の民家で、独り暮らしの高齢男性と、彼の世話をしていたケアセンター八賀のセンター長が死体となって発見される。
当初はセンター長が金品を盗むために忍び込み、高齢男性と揉み合いになったと思われていたが、やがてケアセンターの介護士・斯波宗典(松山ケンイチ)が容疑者として浮上。

さらに、担当検事・大友秀美(長澤まさみ)、助手・椎名幸太(鈴鹿央士)により、この3年間で八賀が出張介護サービスを行っていた高齢者41人が死んでいたことが発覚。
しかも、そのすべてが事件化されることなく、自然死や病死などとして処理されていた。

あなたがみんなを殺したのではないか、動機は何だったのかと取調室で問い詰める大友に、斯波は平然と「殺したんじゃなく、救ったんです」と答える。
彼はケアセンターで最も親身に世話をする献身的な介護士として高齢者や家族に信頼されており、あくまでも高齢者とその家族に救済を与えたかったからこその犯行だった、と言うのだ。

近年は高齢者の介護や安楽死をテーマにした映画や小説が多く、『PLAN75』(2022年)ではオープニングで2016年に相模原市の知的障害者施設で入所者19人が刺殺された事件が描かれた。
これは知的障害者を「社会的に不要な存在」と断じる介護士が施設内で起こした大量無差別殺人事件だったが、本作では在宅介護と訪問介護の問題点が浮き彫りにされている。

斯波が取調に答えて語っているところによれば、本作の事件発生時の2018年、家族が高齢者を殺す介護殺人の発生件数は1年45件に上り、無理心中を含めればさらに多くなるという。
現在の社会はそうした介護弱者に対して無為無策であり、見殺しにされているのも同然だ、自分はそういう人たちの救済を続けてきたのだ、というのが斯波の言い分である。

もちろん、一般の観客であるわれわれには到底うなずける主張ではない。
が、この種の曰く言い難い魅力を兼ね備えたパラノイアをやらせたらピカイチの松山が熱演しているだけに、一定の説得力をもって耳に響くのもまた確か。

介護士と検事が繰り広げる激しい論戦の決着を、あなたはどう感じるか、興味のある方はぜひご覧ください。
なお、本作を観ている最中、郷里・竹原の施設にいる母親から電話がかかってきたときは、すぐに録画を一時停止し、いつもより早く応答しました。

オススメ度B。

A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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