この映画は中学生のころ、テレビ朝日の『日曜洋画劇場』で放送された吹替版を観て大変感動するとともに、ジョーン・バエズが歌う主題歌『勝利への讃歌』が好きになり、いまでも無意識のうちに口ずさむことがある。
今回リバイバル上映されたヴァージョンは、本作の音楽を手がけたエンニオ・モリコーネ特選企画の1本で、監督ジュリアーノ・モンタルド自ら2017年に4Kデジタルリマスター処理を施した英語版。
僕は本作のノーカット字幕版を観たことがなく、そのうち観に行こうと思っていたら、明日2日で公開が終了すると知り、慌てて新宿武蔵野館に足を運んできた。
画質も音声も想像以上にクリアで美しく、この手の旧作はピンク色に変色したフィルムを名画座で観るしかなかった昭和世代の元映画小僧には非常にうれしい。
題材は1920年代前半にボストンで発生し、欧州各国を巻き込んだ助命嘆願運動へと発展した歴史に残る冤罪事件〈サッコ・ヴァンゼッティ事件〉。
貧しいイタリア移民で無政府運動の闘士でもあった靴職人ニコラ・サッコ(リカルド・クッチョーラ)、魚行商人バルトロメオ・ヴァンゼッティ(ジャン・マリア・ヴォロンテ)が2件の強盗殺人事件の濡れ衣を着せられ、7年間の裁判闘争も実らず、ついに死刑に処せられるまでが描かれる。
10代で観たときはとにかく悲劇的な事件だという印象ばかりが強かったが、このトシになってじっくり鑑賞すると、サッコとヴァンゼッティが容疑をかけられた最大の原因は、彼らがイタリア人かつアナーキストという、当時のアメリカ社会における被差別者だったからこそであることがよくわかる。
とくに終盤、法廷で死刑宣告への反論の機会を与えられたヴァンゼッティが、自分の政治信条に対する不当な弾圧だと主張するシーンは、実生活で共産主義者だったヴォロンテの熱演もあり、見応えたっぷりの見せ場になっている。
その半面、サッコとヴァンゼッティを追い詰めていくフレデリック・カッツマン検事(シリル・キューザック)、ウェブスター・セイヤー判事(ジェフリー・キーン)は貫禄たっぷりながら、法廷で自ら声高に人種差別的発言を行っているあたり、いかにも悪役然としている人物造形には若干違和感も感じた。
ヴァンゼッティが死刑にされる前、刑務所内で秘かにマサチューセッツ州のアルヴァン・T・フラー知事(エドワード・デューズバリー)と面会し、「きみが(権力者である)私の立場だったら(死刑囚の)きみを救うだろうか」と聞かれて、「この国の権力は暴力だ」と答えるシーンが興味深い。
とはいえ、執行直前の死刑囚と州知事が刑務所で特赦や執行延期に関する議論を戦わせたなどということが、本当にあったのか。
少なくとも公的文献には残されていないだろうから、冷静に考えると、ここはオリジナル脚本を書いたイタリア人同胞、モンタルド監督の怒り、執念、想像力による映画的飛躍のようにも思えるが。
オススメ度A。
A=ぜひ!🤗😱 B=よかったら😉 C=気になったら🤨 D=ヒマだったら😑