ポスターのコピーにあるように、今年のアカデミー賞授賞式で主要7部門を獲得したクリストファー・ノーランの最新作。
という話題以前に、最初の被爆地・広島出身の僕にとっては、「原爆の父」と呼ばれたオッペンハイマーを描いた本格的伝記映画として、米本国で公開された昨年から非常に気になっていた作品である。
僕がこれまでに観たり読んだりしたオッペンハイマー(本作ではキリアン・マーフィが熱演してオスカーを獲得)についての記事やドキュメンタリーによれば、彼は大変天才的な物理学者だった半面、功名心が強く、政治的野心も旺盛な人物だった。
第2次世界大戦中、アメリカ政府から原爆開発計画(マンハッタン計画)のリーダーに指名されると、自らロスアラモスに研究の拠点を築き、スタッフとなる科学者を次々にスカウトしている。
ここまでは本作も史実を踏襲しているが、オッペンハイマーがロスアラモスに招かなかったアインシュタイン(本作ではトム・コンティが好演)との関係については、新たな解釈(新事実?)が提示されている。
通説によれば、オッペンハイマーが真っ先に参加させて然るべきアインシュタインを招聘しなかったのは、自分が狙っていたノーベル物理学賞を1921年に先に獲られてしまっていたため、嫉妬心とライバル心からあえて外したのだろうとも言われてきた。
しかし、本作ではオッペンハイマーとアインシュタインの間は秘かな友情と、科学者同士ならではの絆で結ばれていたらしい。
これ以上はネタバレになってしまうので書けないが、映画全体の構成の中でも、オッペンハイマーの人物像を語る上でも非常に重要なキーポイントなので、果たして事実なのかどうか、大いに気になるところである。
原爆開発により、戦争を終わらせ、大勢の米国民の命を救ったとして英雄扱いされたオッペンハイマーは、戦後になると水爆開発に反対を表明し、これは科学者として良心の呵責に悩んでいたがゆえだったと言われる。
あげく、1950年代に巻き起こった「赤狩り」によってソ連のスパイだったという疑いをかけられ、世界大戦の英雄から一転、「アカ」の烙印を押されてしまった。
あれほど野心的、かつ情熱的に原爆開発に邁進したオッペンハイマーがなぜ水爆を作ってはならないと頑強に主張し続けたのか。
今に至るまで様々な解釈が試みられている「原爆の父」の豹変ぶりを、監督ノーランは新たな解釈と独特のIMAX映像で僕たちの眼前に突きつけてくる。
本作の見どころは原爆の恐ろしさよりも、その恐ろしい原爆を生んでしまった人間オッペンハイマーの心理と葛藤を映像世界として表現しているところにある。
そこにはノーランの自己投影が反映された部分もあれば、演じたキリアンの感情が重ね合わされた部分もあるだろうから、これが正しいオッペンハイマー像だとして全面的に肯定することはできない。
しかし、世界各地で戦争が勃発し、われわれが核兵器の恐怖に晒されている今日、大量殺戮兵器を開発した人間の心の内に踏み込んだ本作は、歴史的にも大変貴重で価値ある映画と言っていいだろう。
正直、途中で3時間は長いかな、とも感じたが、観終わってみるともう一度最初から観たくなっていた。
オススメ度A。
A=ぜひ!🤗😱 B=よかったら😉 C=気になったら🤨 D=ヒマだったら😑