観終わったあと、「あ〜あ、やっぱりな」と思うか、「参った、騙された!」と驚くか、個人的好みによって評価の分かれそうなイタリア製ミステリー。
ただ、細かいところにケチをつけなければ、監督・脚本が『ニュー・シネマ・パラダイス』(1988年)のジュゼッペ・トルナトーレなので、大いに楽しみながら観ていられます。
主人公ヴァージル・オールドマン(ジェフリー・ラッシュ)は美術品・骨董品の天才的審美眼を持つオークション業界の大物鑑定士。
しかし、その実、画家崩れのビリー(ドナルド・サザーランド)と共謀し、美人画の名画を格安で落札してはこっそりと邸宅の隠し部屋に溜め込んでいる悪人でもあった。
そんなヴァージルの元に、豪壮な屋敷にひとりで暮らすクレア・イベットソン(シルヴィア・フークス)から電話がかかってきて、死別した両親が残した数々の家具や芸術品を売却してほしいと依頼される。
ところが、ヴァージルが屋敷まで足を運ぶと、クレアは最初約束をすっぽかし、2度目の訪問にも電話で何だかんだと言い訳をして姿を現さない。
やがて、クレアは広場恐怖症という精神疾患で、人と会うことを怖がり、屋敷の中の自室に引きこもっていて、そこからヴァージルに電話をかけていることがわかる。
イベットソン家の遺品の鑑定を進めながら、ヴァージルは彫像の陰に隠れて部屋から出てきたクレアの姿を盗み見た途端、その美しさの虜になってしまう。
ヴァージルは友人の機械職人、女たらしのロバート(ジム・スタージェス)の助言を得て、クレアを個室から連れ出して食事をすることに成功。
感情の起伏が激しい彼女に振り回されながらもぞっこんになってしまい、イベットソン家の遺品の競売カタログを完成させ、ついにプロポーズに踏み切るのだが。
様々なミステリーの全貌が明らかになるクライマックスは、さすがストーリーテラーのトルナトーレだけあり、エンニオ・モリコーネの美しい旋律とも相俟って、大変流麗な見せ場になっている。
冷静に考えると不自然で理屈に合わないディテールが多く、ツッコミどころが満載だという批判も多いが、トルナトーレは恐らく、正攻法のミステリーというより、悪夢のようなファンタジーを作るつもりでこういうシナリオを書いたんじゃないだろうか。
すべては老境にある鑑定士が垣間見た夢だったのかもしれない、とトルナトーレが観客に思わせようとしたのだとすれば、こういうどんでん返しにも納得できる。
ただし、広場恐怖症の野球選手を取材した個人的経験から欠点を指摘すると、実際の広場恐怖症はこの映画で描かれているような症状とはまったく異なっており、この病気に関する医学書を読んだヴァージルが疑問を抱かないのは不自然に感じられました。
それはそれとして、極端な潔癖症で、老いらくの恋にのぼせあがる鑑定士を演じたラッシュはなかなかの好演。
俺だって目の前にクレアみたいないい女が現れたら簡単に騙されちゃうかも、と考えてゾッとするシルバー世代は少なくないだろうな。
オススメ度B。
A=ぜひ!🤗😱 B=よかったら😉 C=気になったら🤨 D=ヒマだったら😑