今年1月29日、CAS(スポーツ仲裁裁判所)はロシアのフィギュアスケート選手、カミラ・ワリエワ(17)に対し、2021年12月25日(クリスマス)以降の4年間、あらゆる公式競技に出場する資格を停止し、同日以降の競技会における成績を失格とすると発表した。
これにより、2022年北京オリンピックの個人SP(ショートプログラム)、団体SP、同FS(フリースケーティング)でワリエワとOAR(ロシアからのオリンピック選手)が獲得した金メダルは剥奪されることになった。
本作はCASが裁定を下す約4カ月前、2023年10月からNHKが取材を重ねたドキュメンタリーである。
渦中のワリエワをはじめ、2018年平昌オリンピック金メダリストのアリーナ・ザギトワ、銀メダリストのエフゲニア・メドベージェワなど、数多くのフィギュア選手を育てたモスクワスケートアカデミーで外国のテレビ局が取材を許可されたのは本作が初めてだったという。
それだけに、いままで見ることのできなかった〝ロシア流〟選手育成のシステムや厳しい練習の光景が紹介された映像は大変貴重と言える。
ロシア各地から才能ある少女たちが集められ、フィギュアスケートはもちろん、技術向上のためのバレエ、学校へ通う代わりにアカデミー内で行われている学科の授業などは、ロシア出身のプロテニス選手マリア・シャラポワ(やはりドーピングで一時資格停止処分を受けた)を育てたアメリカのIMGを彷彿とさせる。
授業中にインタビューを受けた少女たちは希望に満ち、目を輝かせて、「いいフィギュア選手になりたい」「オリンピックに出場したい」と夢を語る。
しかし、12歳でこのクラブに入ったワリエワは当初、「有名なコーチがいるところに入るのは怖い」と感じていたそうだ。
現在、西側のスポーツ界で批判されているそのコーチ、エテリ・トゥトベリーゼはいきなり「1カ月で練習についてこられなかったら家に帰すわよ」とワリエワに通告。
トゥトベリーゼに「休むな! 続けろ!」「休んでいたらメダルは他の子が持っていくぞ!」と怒鳴りつけられながら、黙々とリンクを滑り続ける何人もの子供たちに、かつての幼いワリエワの姿を見る思いがする。
そうした過酷な練習を耐え抜いたワリエワは、男子でも難しいとされる4回転ジャンプを連続して成功させるほどの選手へと成長し、ロシアでは「モスクワスケートアカデミーが生んだ最高傑作」と呼ばれ、外国では他国の選手にとても敵わないと思わせることから「絶望」と称された。
NHKのインタビューに対し、ワリエワは資格が回復されるまで「頑張るしかない」と殊勝に語り、トゥトベリーゼは「遅かれ早かれ国際大会には復帰できる」と強弁する。
しかし、15歳から17歳になったワリエワは身長が9㎝(一説には11㎝)伸び、練習でも4回転を跳ぶことができなくなっている。
ワリエワの現状が禁止薬物の摂取と関係しているのかどうか、本作はそこまで言及していないが、大いに見応えのある作品で、観終わったあとの印象もズシリと重い。
オススメ度A。
A=ぜひ!🤗😱 B=よかったら😉 C=気になったら🤨 D=ヒマだったら😑