生涯に500本とも600本とも言われる映画音楽を作曲し、2020年に91歳で他界した巨匠エンニオ・モリコーネの伝記映画。
監督は『ニュー・シネマ・パラダイス』(1989年)、『海の上のピアニスト』(1999年)、『鑑定士と顔のない依頼人』(2013年)で楽曲を依頼したイタリアの名匠ジュゼッペ・トルナトーレで、モリコーネが亡くなるまでの5年間、インタビュー撮影や代表作の編集を重ねて完成させたという。
僕も中学生時代、『荒野の用心棒』(1964年)のメインテーマ「さすらいの口笛」を初めて聴いて以来のモリコーネファンだが、初めて知ることが非常に多かった。
そもそも、少年時代は医者を志しており、音楽家に方向転換したのはトランペット奏者の父親に言われて自らもトランペットを吹くようになってから。
生まれ育ったローマのサンタ・チェチリーア音楽院で、のちに終生の師となる作曲家ゴッフレド・ペトラッシの元で作曲を勉強。
一時はジョン・ケージに代表される実験音楽に傾倒し、楽器以外の声やノイズを採り入れた斬新な手法で注目を集め、人気歌手のヒット曲の編曲家として有名になる。
なるほど、モリコーネがブレークした「さすらいの口笛」の口笛やコーラス、『夕陽のガンマン』(1965年)の銃声を交えた作曲のバックボーンには、こういう実験音楽があったのかと、このトシになって初めて納得。
ただし、モリコーネ自身は意外にもこの2曲が気に入らなかったそうで、『続・夕陽のガンマン 地獄の決斗』(1966年)でやっと満足できる仕事ができたと明かしている。
ちなみに、ブルース・スプリングスティーンはこの音楽を聴いて感激し、映画を観終わるやいなや、すぐさまレコード店に走ってサントラ盤を買った、そんなことをしたのはあの映画だけだった、と本作のインタビューで語っている。
スプリングスティーンがコンサートで独特のアレンジを施した”Tuco fa la colletta”を演奏する貴重な映像が挿入されているのも両者のファンにはうれしい。
小学校の同級生で終生の盟友となったマカロニ・ウエスタン3部作の監督セルジオ・レオーネは、侃々諤々の議論をしながら、最終的にはいつもモリコーネの意見を受け入れていた。
スタンリー・キューブリックが『時計じかけのオレンジ』(1971年)の音楽をモリコーネに依頼しようとしたときは、間に入ったレオーネが自作『夕陽のギャングたち』(1971年)の作曲中だからダメだ、と断ったという。
実は、これはレオーネの真っ赤なウソで、逃して惜しかったと思った映画はあの1本だけだ、とモリコーネ自身は語っている。
キューブリックは結局、既成の楽曲を使っていたが、もしモリコーネが音楽を作曲していたらどんな作品になっていただろうか。
本作で紹介されているモリコーネの作品は45本、インタビューに答えている人物は70人。
それでも、いささかマニアックなファンの僕などは、『狼の挽歌』(1970年)や『エクソシスト2』(1977年)のような埋もれた作品にも触れてほしかったな、と思ってしまいました。
オススメ度A。
A=ぜひ!🤗😱 B=よかったら😉 C=気になったら🤨 D=ヒマだったら😑