オープニング早々、「小学生以下の子どもは視聴を控えることをお勧めします」というテロップが出る。
本作では戦場の実態を伝えるため、重傷を負った兵士や死体となった兵士の映像が流されるので、子どもが観たらメンタルヘルスに悪影響を与え、重大な後遺症を残しかねない、というのだ。
この警告は、12歳以下の子どもほどではないにせよ、61歳になったばかりの僕にもある程度は当てはまる。
ウクライナ兵が地雷で千切れそうになった左足を引きずって装甲車に逃げ込む場面、塹壕の中に引きこもったロシア兵をウクライナ兵が撃ち殺す瞬間などは、正視できないと思いながらも目を引きつけられ、観終わったあとも脳裏にこびりつき、たびたび記憶に蘇るようになる。
本作に登場するウクライナ兵たちは、元テレビカメラマンだったタイトルロールのジーニャをはじめ、元写真家兼ギタリストのジェイ、元フィットネストレーナーのドミトロなど、戦争が始まるまでは一市民だった人間ばかりだ。
家族を守るために軍隊に入り、激戦が続く南部ザポリージャ州の戦場に送られ、塹壕の中で寝泊まりし、欧米諸国から供与された最新型戦車や装甲車でロシア軍を迎え撃つ。
しかし、規模においても戦闘能力においてもウクライナ軍をはるかに上回るロシア軍は、ロボット戦車で無数の地雷を撒き、ウクライナ軍の戦車や装甲車をたちまち走行不能にしてしまった。
塹壕戦で重傷を負い、血みどろになったウクライナ兵が痛みと苦しみに耐えかね、「もう殺してくれ! 俺を楽にしてくれ!」と叫ぶ場面は、フィクションの戦争映画ではよくあるシーンだが、現実の映像を観たのは初めてだ。
ドローンを使った攻防では、ウクライナ兵がリモコン操作でドローンから手榴弾をロシア兵の頭上に落とし、一瞬にして爆殺してしまう。
これを操っていたウクライナ兵は、最初のうちこそ人を殺すことに言い知れぬ恐怖と緊張を覚えたが、何度も繰り返すうちに「これはゲームだ」と自分に言い聞かせるようになったという。
しかし、そうやって感情をフリーズさせれば、平気で人を殺し、冷静に戦場に臨めるようになったかというと、決してそんなことはない。
あるウクライナ兵は、スマホで撮った妻や幼い子供とのファミリーショットを見せて、こう言葉を絞り出す。
「何もかも終われば、またあの頃に帰れると思った。
でも、時間が経つうちに、そんなときは二度と戻ってこないのだとわかった」
近年、これほど克明に、酷薄に、それでも愛情をもって戦場における人間の姿を描いたドキュメンタリーはほかにない。
しかも、すでに終わった戦争ではなく、今まさに現在進行中の戦争で、ウクライナがますます劣勢に追い込まれているという現実が、観る側の心に重くのしかかる。
オススメ度A。
A=ぜひ!🤗😱 B=よかったら😉 C=気になったら🤨 D=ヒマだったら😑