名優ケイト・ブランシェットがベルリン・フィルハーモニー・オーケストラで女性として初の首席指揮者となったマエストロ、リディア・ターを演じてアカデミー主演女優賞にノミネート、ゴールデングローブ主演女優賞を受賞した作品。
という触れ込みを聞いて、てっきり実在の音楽家をモデルにした映画だろうと思い込んで観ていたのだが、ターは架空の人物で、ストーリーもまったくのフィクションだという。
それほど真に迫ったリアリティを感じさせるのは、監督、脚本を手がけたトッド・フィールドがブランシェットの出演を前提に、シナリオを当て書き(特定の俳優に合わせて脚本を書くこと)しているからだろう。
オープニングの作家アダム・ゴプニク(本人)とのトークショー、ジュリアード音楽院の授業中に有色人種の男子学生を教室から退席させるシーンなど、ブランシェットの芝居を延々と長回しで撮っている序盤からグイグイ引き込まれてしまう。
類い稀な才能を持つターはベルリン・フィルで権力をほしいままにしており、長年仕えてきた次席指揮者セバスティアン・ブリックス(アラン・コーデュナー)を団員に諮らず降板させ、ソロチェリストにもベテランの団員ではなく自分が連れてきたオルガ・メトキーナ(ゾフィー・カウアー)を抜擢。
家庭ではレズビアンの妻シャロン・グッドナウ(ニーナ・ホス)、娘ペトラ(ミラ・ボゴイェヴィッチ)を養い、娘がイジメに遭っていると知ると、相手の同級生を脅しにかかる(この場面が結構怖い)。
ブランシェットの演技の白眉はやはり演奏の練習中、ロングヘアを振り乱してタクトを振っている場面で、本当の指揮者か、指揮者を務めた経験があるのではないかと錯覚するほどの迫力。
クライマックスでは本番の公演に臨み、さぞかしダイナミックでリアリティ溢れる指揮を見せてくれるだろう、と期待していたら、ターにセクハラを受けた女子学生の存在が明るみに出るあたりから、物語は想像だにしない方向に進む。
フィールドの脚本と演出はあえて具体的な説明を避け、一度観ただけでは因果関係が理解できない部分も多い。
これがごく普通の映画なら少々イライラさせられるところだが、本作はブランシェットの熱演と意外なオチをつける展開で2時間半超を一気に見せてくれました。
オススメ度A。
A=ぜひ!🤗😱 B=よかったら😉 C=気になったら🤨 D=ヒマだったら😑