最近読んだ中では、最も通読するのに時間がかかった作品である。
内容はあまねく知られている通り、農薬、水銀、排水、排ガスなど、高度経済成長期に日本に蔓延った〝毒物〟がいかにして相互作用し、どれほどわれわれ日本人の心身を蝕んでいるか、という実態を暴いた告発の書。
通常の小説のスタイルとは異なり、著者の有吉佐和子自身が主人公兼リポーターとして全国各地、ときには海外の農家や研究所などを取材して回る。
朝日新聞での連載をほぼそのまま書籍化しているため、ストーリーラインがなく、小説ならではの盛り上がりにも乏しい上、一度読んだだけでは理解し難い専門用語や図解が頻出することもあり、どうしてもページを繰る指先が鈍ってしまう。
とはいえ、内容は21世紀の今日にも通じる示唆と警告に溢れており、昔話だと片付けられない普遍的な問題作であることも確か。
例えば、有吉が称揚している無農薬や有機農法によって栽培された野菜など、健康にいいとわかってはいても、諸物価値上がりが著しい昨今、われわれ庶民にはなかなか手が出ず、農薬漬け、殺虫剤漬けの安価な野菜を購入してしまう、という現実は如何ともし難いからだ。
学者や専門家ではなく、作家ならではの指摘だな、と感心したのは、有吉がフランスの農家を見学に行き、雑草が生えている畑を指して、「あなたたちは草むしりをしないのか」と尋ねると、フランス人が平然として「ちゃんとやっている」と答えるくだり。
日本人の目には雑草が放置されていると映っても、フランス人が雑草などないのも同然であるかのように言い切るのは何故なのか。
このやり取りは一見、フランスの農家がルーズでいい加減、日本の農家が几帳面でしっかりしているようにも感じられる。
しかし、有吉は逆に、日本のほうがあまりに潔癖過ぎるのではないか、と考える。
日本の農民は江戸時代、武家社会による杓子定規な政策に虐げられ、田畑の雑草も常にむしり取っておくようにと厳格な指導を受けていた。
そのころの習慣が伝統として根付き、除草剤や殺虫剤を過剰に使用するようになり、それが現代社会における健康被害の根本的原因なのではないか、というのだ。
こういう分野横断的、かつ歴史的考察を行える視点は、様々なジャンルで名作、問題作を生み出した有吉でなければ持ち得ないだろう。
そういう意味でも大いに勉強になったが、やっぱり完読するのはしんどかったです、はい。
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