韓国で朴正煕大統領が圧政を敷いていた時代、専属理髪師に指名された小さな床屋の店主とその家族が激動の波に翻弄される物語。
作品中の大統領は「閣下」と呼ばれるだけで朴正煕という名前は出てこず、オープニングのタイトルクレジットにも「この作品はフィクションです」と大きなテロップが出るが、そういう演出がかえって事実に根差した映画なのだろうと思わせる。
ソン・ガンホ演じるソン・ハンモはソウル市内の小さな町で理髪店を営む小市民。
かねて目をつけていた店員のキム・ミンジャ(ムン・ソリ)に手をつけて妊娠させ、故郷に結婚を誓い合った恋人がいるのにもかまわず、強引に結婚してしまう。
1959年、ハンモは町内の顔役に先導され、大統領選挙で不正に加担し、李承晩を当選させる陰謀に加担。
これに怒った市民や学生が同年4月、全国で大々的なデモを行い、李承晩を失脚させる契機になった「四月革命」に発展した日、大騒動の最中にひとり息子のナガン(イ・ジェウン)が生まれる。
ハンモは歴史的な革命の日に息子が生まれたと自慢するが、当時の韓国社会では理髪師は蔑視されている職業だったらしく、ナガンは近所の子供たちに「おまえの父ちゃん、チョキチョキハンモ!」などとからかわれてイジメの対象になる。
また、このころのソウル市郊外は下水道のインフラが整っていなかったらしく、ハンモ一家を含め、近所の住人たちが戸外にある共同便所を使っているという生活描写が興味深い。
そんなハンモの床屋に韓国情報部の男がやってきて、大統領専属の理髪師に指名される。
ハンモの腕と人柄を買った大統領は訪米に帯同させ、大統領がニクソンと会見したニュース映像にハンモが映り込んだことから、一躍町の名士となって店も大繁盛となるのだが。
ガンホが演じるハンモの人物像は、のちにアカデミー賞を受賞する『パラサイト 半地下の家族』(2019年)で彼が演じた失業中の父親キム・ギテクにそっくりで、ひょっとしたらギテクの父親に当たるキャラクターなのかと思いたくなるほど。
韓国人でなければピンとこないディテールも散見されるが、クスクス笑わせながらかつての圧政を痛烈に批判し、最後はジーンとさせるファミリードラマである。
オススメ度B。
A=ぜひ!🤗😱 B=よかったら😉 C=気になったら🤨 D=ヒマだったら😑