『フェイブルマンズ』(WOWOW)🤗

The Fabelmans
151分 PG12 2022年 アメリカ=ユニバーサル・ピクチャーズ
日本公開:2023年 配給:東宝東和

ポスターのキャッチコピーにある通り、スピルバーグが自らの青春時代を題材とした自伝的作品。
僕のようにデビュー当時の『激突!』(1971年)、『ジョーズ』(1975年)、『未知との遭遇』(1977年)などなど、ほとんどオンタイムで観ている世代には独特の感慨を抱かせる一編でしょうね。

スピルバーグがモデルの主人公サム・フェイブルマンズ(ガブリエル・ラベル)の映画初体験は、8歳の頃に両親に連れられて観に行った巨匠セシル・B・デミル監督の『地上最大のショウ』(1954年)。
これがきっかけで、自宅の鉄道模型をクラッシュさせては8ミリカメラで撮影するようになり、ああ、これがのちの『激突!』の原体験だったのか、と僕と同世代のファンならすぐピンとくるはず。

ボーイスカウト活動をしていた10代の頃には、仲間から出演者を募って西部劇や戦争映画も自主制作。
アメリカ兵がドイツ兵に狙撃される場面ではジャムのような血糊を大量に使っており、『プライベート・ライアン』(1998年)の原点はここにあったのかと思わせる。

しかし、エンドクレジットに「父アーノルド、母リアに捧ぐ」とあるように、本作の最大のテーマは、初めて映画を観に連れて行ってくれた両親の愛と葛藤を描くことにある。
父バート(ポール・ダノ)は優秀なコンピュータ技師で、ピアニストの妻ミッツィ(ミシェル・ウィリアムズ)と、サムと3人の妹たちをこよなく愛していた。

その父はエンジニアとしての実績と才覚を買われ、小さな会社からIBMに転職し、家族そろってアリゾナからカリフォルニアへ引っ越す。
ところが、転居先はユダヤ人への差別感情が激しい土地柄で、サムは転校した高校でいじめに遭い、やがて家族の間にも亀裂が生じ始める。

決して幸せだったとばかりは言えない自分の10代、また人間としての性(さが)や弱さを露呈することもあった両親の姿を、スピルバーグは率直に、愛情を込めて描き出している。
20〜21世紀の映画人として世界最高の成功を収めた人物の自伝でありながら、自慢や我田引水が鼻に突くこともなく、純粋なエンターテインメントとして素直に楽しめ、最後は心地よく感動できました。

僕も10代のころ、タンクローリーやサメや空飛ぶ円盤を夢中になって観たけれど、60歳になった今もこういう作品に心を揺さぶられるのだから、改めてすごい映画人だと思う。
スピルバーグにはまだまだいい作品を撮ってほしいですね。

なお、僕と同世代の映画ファンが観たら、「生まれて初めて劇場で観た映画は何だったか?」と思い返したくなること間違いなし。
ちなみに、僕の場合は、父親に豊田郡(現広島市)安芸津町の映画館に観に連れて行ってもらった『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』(1967年、東宝)、実写版『黄金バット』(1966年、東映)の2本立てでした。

オススメ度A。

A=ぜひ!🤗😱 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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