PIUKUP前項、宮﨑駿の引退作『君たちはどう生きるか』(2023年)の10年前に公開された〝最初の引退作〟。
2013年の公開時には100億円以上の興行成績を挙げたが、出来栄えに関しては賛否両論だった。
主人公は零式艦上戦闘機、いわゆるゼロ戦の設計主任として知られている堀越二郎(庵野秀明)。
純粋に飛行機に憧れる少年だった彼が、東京帝大進学のために上京していた車中、関東大震災に遭遇し、里見菜穂子(瀧本美織)という少女とめぐりあう。
やがて三菱内燃機製造に就職、戦闘機の設計に取り組み始めた堀越は、仕事で訪れた避暑地のホテルで菜穂子に再会、結婚を申し込む。
しかし、彼女はこのとき、結核に冒されていた。
この経緯は必ずしも事実に即しておらず、宮崎自身の父親と、現実に結核で亡くなった妻の面影が色濃く投影されているという。
宮崎自身は恐らく、自らの飛行機への憧憬を堀越に託し、その堀越の人生に父母を重ね合わせようとしたのだろう。
自分のアニメーターとしての人生に幕を引くに当たって、これ以上の題材とストーリーはないと宮崎が考えたのであれば、十分に得心がゆく。
そういう一映像作家の心情が反映されたプライベートな映画として見ると、これはこれで一個の作品として首尾結構しており、完成度も高い。
だが、ぼくのように宮崎作品にそれほど思い入れを持たない一観客にとっては、説明不足な点が多く、展開も平板で、その平板さに堀越のアテレコを務めた庵野秀明の棒読みぶりがさらに拍車をかけているように感じられた。
率直に言えば、いささか退屈なところのある映画だった、ということになる。
この作品からは、堀越二郎が実際にはどのような人物であったか、ということはほとんど伝わってこない。
彼が飛行機の設計技師としてどこがどれほど優れていたのか、またゼロ戦のどういうところが革新的だったのか、そしてそれが特攻に利用されたとき、堀越の胸中にはどのような思いが去来していたのか。
そういうぼくが知りたいことを、この映画はまったく説明してくれない。
いや、それはあなたの見方が間違っているのだ、この作品はそういう社会的なテーマを伝える映画ではないのだ、と言われればそれまでなのだが。
ちなみに、宮崎作品でぼくが一番感銘を受けたのは『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)。
次いで『風の谷のナウシカ』(1984年)、『紅の豚』(1992年)など。
劇場へ足を運んでいたのは『魔女の宅急便』(1989年)あたりまでで、名作とされる『もののけ姫』(1997年)、『千と千尋の神隠し』(2001年)などはいずれもテレビで見た。
壮大で幻想的な物語には確かに心打たれるものがあったけれど、どこか自分の内面で閉じられている世界だな、という印象を受けた覚えがある。
オススメ度C。
旧サイト:2013年09月15日(日)付Pick-up記事を再録、修正
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