『オフィサー・アンド・スパイ』(WOWOW)🤗

J’accuse
131分 2019年 フランス=ゴーモン、イタリア=01ディストリビューション
日本公開:2022年 配給:ロングライド

1894年、スパイ容疑で終身刑となり、フランス史上に残る冤罪事件として名高い「ドレフュス事件」を映画化した作品。
晩年になって歴史物や文芸作品などの大作を手がけ、いまや名匠としての地位を確固たるものにしているロマン・ポランスキーが、今回もがっちり映像化している。

開巻、エッフェル塔の足元に建つフランス陸軍の建物の前、大勢の兵士や国民が見つめる前で行われるユダヤ人砲兵大尉アルフレッド・ドレフュス(ルイ・ガレル)の官位剥奪式の場面からして異様な迫力。
帽子を取られ、階級章を剥がされ、最後には軍用サーベルを真っ二つに折られる間、微動だにしなかったドレフュスが「私は無実だ!」と叫ぶシーンで一気に引き込まれる。

ドレフュスの上官ジョルジュ・ピカール中佐(ジャン・デュジャルダン)はもともと反ユダヤ主義者で、事件以前はドレフュス本人に「自分の評価が低い」と食ってかかられるような間柄だった。
が、軍事裁判の直後から諜報部長に就任し、ドレフュスを告発したウベルト・アンリ少佐(グレゴリー・ガトゥボワ)が保管していた機密文書を検分して冤罪だと直感。

ピカールは独自に調査を進めるうち、真犯人の存在を突き止めるが、ユダヤ人を終身刑にしておきたい将軍や陸軍大臣に事件を蒸し返さないよう圧力をかけられ、部長職を解任された上に遠くアフリカへと飛ばされてしまう。
真相追及に執念を燃やすピカールは、秘かにパリに舞い戻ると、オーロール新聞社を頼り、エミール・ゾラ(アンドレ・マルコン)を紹介され、この大作家がドレフュスは無実であると訴える大統領への告発文を寄稿。

ドレフュス事件を紹介した記事や読み物はゾラをの英雄的行為を賞賛したものが多いが、ここからすぐに事態が大きいたわけではなかった、ということをこの映画は教えてくれる。
ゾラは軍への侮辱罪で有罪となり、禁錮1年、罰金3000フランを科され、ピカールも反逆罪で収監されるハメになり、再審のチャンスを勝ち取ったドレフュスにも再度有罪判決が下された。

再調査を受けなければならなくなったアンリがピカールと決闘したり、ピカールの弁護士フェルナンド・ラボリ(メルヴィル・プポー)が銃撃されたり、次々と血生臭いトラブルが巻き起こった末に、ドレフュスがやっと無罪判決を勝ち取ったのは12年後の1906年。
ドレフュスはその後、軍に復帰したピカールと再会を果たすが、ふたりの間に友情のようなものは存在しなかったことが示唆される。

今年89歳のポランスキーは終始厳しいタッチを貫き、徹頭徹尾、正攻法でエンディングまで引っ張っていく。
第76回ヴェネツィア国際映画祭の審査員大賞、第45回セザール賞、第25回リュミエール賞の監督賞など、受賞ラッシュとなったのも当然、と個人的には思う。

…んですが、欧米ではまたしても過去の性犯罪を引き合いに出され、轟々たる非難を浴びたそうだ。
DeNAのバウアーもそうだけれど、欧米社会においてはこの種の犯罪に〝市民感情的時効〟はないんでしょうね。

オススメ度A。

A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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