劇場公開された15年前、上映禁止運動が起こり、公開を自粛した映画館も相次いだ問題作。
当時よりも中国との関係がはるかに悪化している折、改めて我が国における本作の受け止め方を振り返っておきたいと思います(※ネタバレあり)。
※以下、旧サイト:2008年05月10日(土)付Pick-up記事を再録、一部修正
見てきました、話題騒然のこの1本。
渋谷のシネアミューズ イースト/ウエストに行き、13時10分の回で整理券をもらったらたちまち満席に。
見終わってロビーに出ると、もう次の回のお客さんたちが列をなし、ロビーまでごった返しておりました。
場内ではスクリーンの右端に警備員が座っていて、上映中は常に観客席に目を光らせている。
ビルの1階にも制服姿の警察官がひとり。
ウソかホントか、ロビーには私服が常駐している、との情報も流れています。
ざっと見渡したところ、客層は様々。
いかにも戦争体験を引きずっていそうなご老体もお見かけしましたが、意外に若いカップルも多い。
B’zのコンサートで見かけそうなキャピキャピギャル(今や死語か)の3人組もいて、「『連合赤軍』(同じ2008年に公開された若松孝二監督作品『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』)見に行ったときは寝ちゃったんだよねー」「おかげでキレイな遠山美枝子さん見逃しちゃったー」「きょうは寝ちゃダメだよー」などと話している。何だかなー(^^;。
この盛況ぶりに、映画館側では上映期間を今月23日まで延長することを決定したそうです。
が、ここまで観客を集めていながら、何故かネット上でのレビューの評価は極めて低い。
☆5つのうち3つで合格と言われる中で、☆1個半にも達してないんだから。
このギャップはどこから生じているのか、自分の目で観て確かめるほかない。
率直な感想を言えば、右翼や一部マスコミが騒ぐほどの反日的な作品ではありませんでした。
靖国を肯定する側と否定する側とを、割合公平に描いている。
が、そのぶんメリハリに欠けているのも確か。
実を言うと、前半は何度かウトウトしかけたほど。
ところが、眠気にめげずに目を見開いていると、客観的立場を装っていることに、ある種の作為が感じられるようになってきたのです。
実際、レビューでは「ずるい」という声が少なくない(「欺瞞」は言い過ぎだと思うけれど)。
本作のパンフレットに文化人の方々が寄せたコメントの如く、目を見張るほどのドキュメントとは言い難い。
靖国のご神体が刀であるとは知らなかったし、その刀匠にインタビューを試みたことは大いに評価できる。
ただ、日本の軍人がその刀で何をやったか、戦争の記録フィルムで示された終盤には、「何だ、結局はまた結論をそこへ持っていくのか」と溜め息をつかないではいられませんでした。
一見バランスの取れた描き方も、要は「太平洋戦争における日本兵の振る舞いはいかに極悪非道だったか」という主張に説得力を持たせるためだったのか、と。
ここで思い出したのが、ベルナルド・ベルトルッチ監督の『ラスト・エンペラー』(1987年)に挿入された記録映像が問題視された一件。
中国人は刀を日本人の残虐さの象徴と見なし、日本人はその証拠とされている映像を捏造だと主張する。
この歴史認識の差異は20年前とまったく変わっていない。
観ている最中、お客さんたちの感情的な反応も散見できました。
小泉首相が参拝する場面で拍手をする若者がいたり、終盤の日本刀批判に「戦争に対する認識というものが…」と文句をつける高齢者がいたり。
ネットに溢れているのもこの種の感情論です。
とくにレビューは匿名だから、何を言っても反論されても、実害はまったくない。
言いたいことを言いっぱなしにして済むもんね。
しかし、日本映画界において一つ言えるとすれば、靖国神社という素材を先に中国人に映画化された、という反省はあって然るべきでしょう。
作り手だけでなくファンも含めて、「どうせ中国人が作ったものだから」などと罵る前に、自分たちなら靖国をどのように描くことができるか、これを機会に真面目に考えたほうがいい。
オススメ度C。
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨 D=ヒマだったら😑