このDVDのパッケージだけ見ると、えっ、ショーン・コネリーってこんなアクション映画に出てたっけ? と勘違いする人も少なくないに違いない。
実際、まるで若き日のインディー・ジョーンズのパパが北極で大暴れするお話であるかのような装丁だ。
もちろんそんなわけはなく、これは1970年に劇場公開された『SOS北極…赤いテント』。
世界探検史上つとに知られる1928年の飛行船イタリア号事件を映画化した旧ソ連とイタリアの合作で、イタリア号で北極点を目指すウンベルト・ノビレ将軍をピーター・フィンチ、救出に向かうロアール・アムンセン博士をコネリーが演じている。
ぼくが初めて見たのは中学生時代、いまは亡き淀川長治さんが解説していた『日曜洋画劇場』(テレビ朝日系)だった。
飛行船の冒険を描いた映画だというから、それなりに勇壮な内容を期待していたのに、いきなりメロドラマのような旋律の流れるタイトルバックに面食らわされる。
本編が始まると、不眠症に悩むノビレの元へ次から次へとイタリア号事件の関係者が来訪。
登場人物たちのやり取りを聞いているうち、ノビレ以外はすでに死んでおり、彼が夢の中で見ている亡霊たちだということがわかってくる。
イタリア号事件の最中、あるいはそのあとで命を落とした亡霊たちは、ノビレを裁判にかけるために彼の家へ集まってきたのだ。
こういう設定だから、内容も暗く、演出も重く、見ているうちにだんだん気分が沈んでくる。
しかし、この時代の映像叙事詩としてのクオリティはなかなか高い。
オプチカルでもCGでもVFXでもなく、北極の大氷原で大掛かりなロケ撮影を敢行した場面にはいまでも一見の価値がある。
とくに、氷塊の上で途方に暮れる遭難者たちを空から捉え、ワンカットでフェードアウトしていくシーンが素晴らしい。
公開当時、70ミリの大画面で観たらさぞかし客席で圧倒されたことだろうし、現代のIMAXカメラでリメイクされたらもっとスケールの大きな作品になっていたかもしれない。
哀愁のある主題曲はソ連側のアレクサンドル・ザツェーピンのスコア。
欧米公開版にはイタリア側のエンニオ・モリコーネが主題曲を作曲しており、当初の日本公開版も(恐らくテレビ放映版にも)こちらが使われていた(ただし、上映時間が30分ほど短い)。
なお、いかにも主役のようにクレジットされているコネリーが出てくるのは、158分中80分過ぎで、出演している場面をすべて合計しても15分程度。
しかも、ロシア語の吹き替えはコネリー本人とまるで声質が違う。
という杜撰な部分が目についても、妙に心に引っかかるものを残す。
1970年代にこだわりのある中高年なら見ておいて損はない作品です。
オススメ度B。
旧サイト:2008年05月3日(土)付Pick-up記事を再録、修正
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