第88回アカデミー賞の作品賞、監督賞、脚本賞、編集賞、助演男優賞、助演女優賞など計6部門にノミネートされ、作品賞と脚本賞を受賞、そのほかにも世界各国で数々の賞を獲得して話題になった。
監督のトム・マッカーシーは移民問題を扱った秀作『扉をたたくひと』(2008年)で、「9.11」以降アメリカにはびこる不寛容の空気に鋭いメスを入れた人物。
よく知られているように、本作の題材はカトリック教会の神父たちの大規模な性的虐待事件とその隠蔽システムを暴いた米国の地方紙ボストン・グローブによる2002年の調査報道である。
タイトルロールの「スポットライト」とは、ひとつのニュースやテーマを掘り下げて取材し、長期間に渡って連載しているグローブの看板コラムの名称。
観ていて最初に意外に思ったのは、この調査報道をスタートさせたのが地元ボストンの記者ではなく、マイアミから赴任してきたばかりの新任の編集局長マーティ・バロン(リーヴ・シュレイバー)だったこと。
彼は部下たちとは違うユダヤ人で、これまで地元の人間たちが見過ごしてきた問題を詳しく報じることこそジャーナリズムの使命ではないか、と主張する。
そのバロンと直接面識がないにもかかわらず、スポットライト・チームの記者マイク・レゼンテス(マーク・ラファロ)の取材を受けているうち、バロンに共感を寄せるようになるのが、性的虐待の被害者たちを支えているアルメニア人の弁護士ミッチェル・ガラベディアン(スタンリー・トゥッチ)。
最初のうちは取材に非協力的だったガラベディアンが、「バロンがこの事件に注目した気持ちが私にはわかる」と、レゼンテスにこう打ち明ける場面が印象的だ。
「何故なら、バロンも私もこのボストンで教会に通ったことがない。
われわれはどちらもアウトサイダーだからね」と言うのである。
このように、メインストーリーの脇や背景で重要な役割を果たしていたバロンやガラベディアンに比べて、チームを率いるスポットライト斑デスクのウォルター〝ロビー〟ロビンソン(マイケル・キートン)は当初、この案件にそれほど意欲的な態度を見せようとせず、ロビーの上司の報道部長ベン・ブラッドリー・Jr(ジョン・スラッテリー)に至っては「教会を敵に回すのか」と明らかに腰が引けていた。
それは彼らが長年ボストンで暮らしてきた地元の人間だからであり、とりわけロビーは神父たちの性的虐待事件を揉み消してきた弁護士たちの友人でもあったからだ。
クライマックス寸前、レゼンテスが裁判所で事件を立証する公式文書を入手、サーシャ・ファイファー(レイチェル・マクアダムス)の地道な取材によってスクープできるネタがそろい、「さあ、明日にでもこの記事を載せてくれよ」とレゼンテスがいきり立つ中、「まだだ」とロビーがストップをかける。
ひとりやふたりの神父のスキャンダルを書き立てたところで、教会内部の隠蔽システムは突き崩せないだろう、ここまで明らかになった87人すべての神父たちを俎上に上げるところまで行き着く必要がある、と。
そして、ロビーはクリスマス・イヴの夜、長年の友人でもあったベテランの弁護士ジム・サリヴァン(ジェイムー・シェリダン)の家を訪ねる。
自分たちが独自に入手した神父のリストを突きつけ、このうちの何人を弁護したのか、このリストに挙げられた神父は本当に全員が性的虐待を行ったのか、と迫るのだ。
調査報道の内幕を描いたという以上に、監督・脚本を務めたトム・マッカーシー(共同脚本ジョシュ・シンガー)のヒューマンな視点とアプローチが光る。
シュレイバー、キートン、ラファロ、マクアダムズ、トゥッチなど、そろって好演しているグローブとスポットライトの面々のアンサンブルも素晴らしい。
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旧サイト:2016年08月21日(日)付記事を再録、修正
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