『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』(WOWOW)🤗

Dark Waters
126分 2019年 アメリカ=フォーカス・フィーチャーズ
日本公開:2021年 配給:キノフィルムズ

アメリカ映画には国家や大企業による組織的不正や犯罪を暴いた作品が多く、一つのジャンルを確立しているが、本作はその中でも一際優れた出来栄えを示した秀作である。
今回、俎上に載せられているのはアメリカで最大、世界で第4位の化学企業デュポンが40年以上に渡って有毒物質を河川や山野に排出していた問題。

1998年、主人公の弁護士ロバート・ビロット(マーク・ラファロ)は、念願だったオハイオ州の大手名門弁護士事務所に就職した矢先、祖母の知り合いだというウエストヴァージニア州パーカーズバーグの農場主ウィルバー・テナント(ビル・キャンプ)の訪問を受ける。
かつては190頭もいた牛のほとんどが死んでしまった、デュポンの工場から流されている廃液が原因らしい、訴えようとしても地元の弁護士たちは尻込みして引き受けてくれない、だからビロットを訪ねてオハイオ州までやってきた、というのだ。

当初はビロットも大企業側につく弁護士であることを理由に断っていたが、祖母の様子を見に里帰りした際、テナントの農場を訪ねて、それまでの印象が一変。
テナントに牛の死体の写真を見せられた上、実際に生きている牛が突然暴れ出す様子を目の当たりにして、本格的な調査を開始する。

当初は弁護士事務所の社長や同僚に疑問を持たれ、デュポンの顧問弁護士にもパーティー会場で罵られるなど、様々な圧力を受ける。
が、社長をはじめ、、同僚たちを説得して情報開示請求に踏み切り、デュポンが隠蔽していた有害物質の存在に迫っていく。

その結果、デュポンが1960年に販売を始めたテフロンの製造過程で、ペロフルオフオクタン酸(PFOA=C8)という化学物質が発生していることが判明。
このPFOAに発癌性、催奇性があることを知りながら、デュポンがウエストバージニア州をはじめ、アメリカ全土の土壌や河川に廃棄していた事実も明らかになる。

こうしてビロットはテナントたちによる集団訴訟を引き受けることになるが、当然のことながらデュポンも争う姿勢を示して譲らない。
本作、及びこの問題の最も大きな特長は、訴訟が1998年から2017年まで実に20年間の長期に及び、しかも一部ではまだ係争が続いていることである。

元ネタはビロットの活動を報じたニューヨーク・タイムズ・マガジンのナサニエル・リッチの記事で、熱心な環境保護運動家でもあるラファロが自ら映画化権を買い、製作に当たった。
デュポンは我が国にも日本法人、グループ会社、グループ合弁会社とその工場を有しており、日本でもこの恐ろしいPFOAが垂れ流しにされていた可能性が高い。

ちなみに、PFOAはすでにアメリカでも日本でも使用中止に追い込まれているが、日本で決定が下されたのはやっと2021年のことだった、と本作が放送された番組〈W座からの招待状〉のMC、脚本家の薫堂薫さんが明かしている。
しかも、この種の化学物質は、いったん体内に入ったら死ぬまで消えることはないという。

オススメ度A。

A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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