タイトルの『黄金のアデーレ』とは、オーストリアの画家グスタフ・クリムトが、ウィーンのユダヤ人実業家フェルディナント・ブロッホ=バウアーの妻をモデルとして描いた肖像画『アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 Ⅰ』(1907年)の俗称である。
この名画は第二次世界大戦中にナチスに収奪されたが、戦後にフェルディナントに返還され、ウィーンのベルヴェデーレ美術館で展示されていた。
しかし、この絵の所有権は本来、戦時中にアメリカへ逃れたバウアー夫妻の姪マリア・アルトマン(ヘレン・ミレン)にあった。
1998年、姉ルイーゼの遺品の中にあった手紙でそのことを知ったマリアは、愛する叔母の肖像画を取り戻せないかと、友人のバーバラ・シェーンベルク(フランシス・フィッシャー)に相談し、息子の弁護士ランディ(ライアン・レイノルズ)がオーストリア政府を相手に返還交渉に乗り出すことになる。
ところが、『黄金のアデーレ』は評価額1億8000万ドル、「オーストリアのモナ・リザ」とも言われる国家の至宝だけに、政府側は木で鼻を括ったような対応で取り合おうとしない。
難航を極める交渉と裁判の合間に、バウアー一家がナチスに受けた虐待や簒奪、マリアが夫フレデリック(マックス・アイアンズ)とともに命からがらスイスのケルンへ脱出した回想が挟まる。
内容は実話に基づいており、実在するマリアとランディ・シェーンベルクの証言をアレクシ・ケイ・キャンベルというライターがドラマティックにまとめている。
ヘレン・ミレンはロシア人の父とイギリス人の母の間に生まれた女優だが、本作では実際にもユダヤ人ではないかと思わせるほどの熱演を披露し、世界ユダヤ人会議から特別名誉賞を授与された。
ミレンは本作の後、優れたドキュメンタリー『#アンネ・フランク−生存者が語る「日記」のその後−』(2019年)にも出演し、ナチスに蹂躙されたユダヤ人の歴史を風化させてはならないとアピールしている。
そうした使命感がモチベーションになっているからか、非常に見応えのある作品に仕上がっている半面、日本人にはメッセージ性が強過ぎて、いささか重苦しく感じられるかもしれない。
オススメ度B。
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨 D=ヒマだったら😑