10年ほど前に目から鱗のピカソ論『ピカソは本当に偉いのか?』(2012年/新潮新書)を著した著者が、今度は2枚目の鱗を落としてくれた美術史論。
僕は興味のある画家の展覧会にのみ、ごくたまに美術館に足を運ぶ程度の絵画ファンだが、そんな〝にわか〟なりにかねてから漠然と抱いていた素朴な疑問がいくつかあった。
そんな疑問の一つが、花瓶の花や皿に盛られた果物の静物画は、いったい何のために描かれたのだろうか、というもの。
これが実は、16世紀の宗教改革にあった、という僕などは想像もしていなかった史実を提示するところから本書は始まる。
それまで、西洋美術の主流と言えば教会や聖堂に描かれた壮麗な宗教絵画だった。
ところが、1517年にマルティン・ルターが聖書の教えに従って偶像崇拝を禁じるべきだと主張、いわゆる宗教改革が始まって、画家はかつてのような宗教絵画を描けなくなり、大口の注文をしてくれる教会という大得意を失ってしまった。
そうした中、オランダの美術商と画家たちが新たな〝商品開発〟として取り組んだのが、一般市民の家に飾るための静物画や風景画だった、要するに今日のポスター代わりだった、というのである。
画像の帯にあるフェルメールの『牛乳を注ぐ女』(1659年)もそうした風景画の流行によって生み出された作品で、帯にあるように実際にパン屋の店先に看板代わりにかけられていたそうだ。
ちなみに、フェルメールがこの不朽の名作によって得た報酬は、家族全員で食べられる3年分のパンだった。
こうして絵画が一般市民にも買える商品となった時代を経て、19世紀にマネ、ドガ、モネ、ルノワールなど子供の落書き程度に思われていた印象派の絵画を〝超高額商品〟に仕立て上げたのが美術商デュラン=リュエル。
読み終わるころには、なるほど、高尚な美術も〝ビジネス戦略〟なしには発展し得なかったのだな、やっぱり売れるものを作らなきゃダメなんだと、我が身に置き換えてシミジミと納得。
絵にもゲージツにも興味はない、という人にもオススメの解説書です。
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