シリーズ最終作『ゴッドファーザーPART Ⅲ』(1990年)の公開30周年を記念してフランシス・フォード・コッポラが再編集し、アメリカ本国で2020年に劇場公開されたリニューアル版。
30年前のヴァージョンは2度ほど観ているので、再見しても退屈するかと思ったら、意外に引き込まれてほとんど一気見してしまった。
明らかに変更されていることがわかったのはオープニングとエンディング。
30年前はマイケル・コルレオーネ(アル・パチーノ)の叙勲の場面で幕を開けたと記憶しているが、今回はマイケルがバチカン銀行のギルディ大司教(ドナル・ドネリー)と融資の交渉をするシーンから始まる。
また、前作のラストではシシリーの実家の庭で椅子に腰掛けていたマイケルが倒れ、彼が死んだことをはっきりと示して終わっていたところを、今回はその寸前、マイケルがサングラスをかけた場面でカットし、「最期」を暗示するにとどめた。
アル・パチーノや元妻ケイ役のダイアン・キートンはこの再編集版を絶賛しており、僕もこちらのほうが内容を呑み込みやすく、鑑賞後もより余韻の感じられる作品になっていると思う。
それでも変わらぬ一番の難点は、やはり劇場公開時に酷評されたマイケルの娘メアリー役、急遽降板したウィノナ・ライダーに代わって〝縁故採用〟されたコッポラの娘ソフィアである。
演技自体はそれほど批判されるようなレベルではないけれど、華と雰囲気に乏しく、両親役のパチーノとキートンがシシリーで思い出を語り合う場面に比べると、ソフィアと従兄ビンセント・マンシーニ役アンディ・ガルシアのラブシーンはあまりに情感が希薄。
また、ソフィアの出演によってコッポラ一家のファミリー映画であるという印象が前2作よりも露骨になり、ファンに違和感を与えたことも、本作が劇場公開時に酷評された原因のひとつだろう。
コッポラの父カーマインの担当した音楽が素晴らしい効果を挙げ、妹タリア・シャイアがマイケルの妹コニーをそれなりに好演しているとしても、だ。
アル・パチーノ唯一の公式インタビュー本『アル・パチーノ』(2007年、キネマ旬報社)によれば、前2作とはイメージがガラリと変わったマイケルのヘアスタイルにも、パチーノ自身は反対だったという。
本作の撮影当時、実生活でもパチーノの恋人だったダイアン・キートンにも「絶対にダメ!」と言われたが、コッポラのこだわりに押し切られたのだそうだ。
ファンにはよく知られているように、この3作目はもともと、前2作でコルレオーネ・ファミリーのコンシリオーリ(相談役、顧問弁護士)を務めていたトム・ヘイゲン(ロバート・デュヴァル)とマイケルが対決する物語になる予定だった。
マイケルの父、先代ドン・ヴィトー・コルレオーネ(マーロン・ブランド)の養子であり、実の兄弟同然に育てられたヘイゲンがマイケルに牙を剥くシナリオが映像化されたらどんな作品になっていただろうか。
あのころ伝えられた情報によれば、デュヴァルはパチーノとほぼ同額のギャラ350万ドルを要求し、パラマウントが拒否して、本作ではヘイゲンがすでに死んだことにされてしまった。
現実に起こったバチカンとイタリア政財界の疑獄事件題材にしたシナリオは、デュヴァル降板による言わば苦肉の策だったとも言える。
そうした様々なハンディを背負って製作された本作は、完成度ではさすがに前2作に遠く及ばないものの、しかし、それでもファンの心に染み入る映像世界を構築することにはかろうじて成功している。
マイケルの行動を以前よりも共感を持って見られるようになったのは、僕自身が劇場公開時より30年トシを取ったからでもあるでしょうけどね。
オススメ度B。
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨 D=ヒマだったら😑