第86回アカデミー賞でマシュー・マコノヒーが主演男優賞、ジャレッド・レトが助演男優賞を受賞した作品。
随分と評判がいいので、日本公開された日(2014年2月22日)から気になっていた。
主人公のロン・ウッドルーフ(マコノヒー)はテキサス州ダラスに生まれ育った実在の人物である。
当地では典型的な〝不良カウボーイ〟で、酒、女、ドラッグとやりたい放題の放埒な人生を送り、1985年に35歳でHIVウイルス、つまりエイズに感染し、余命1カ月と医師に宣告される。
一日でも長く生きながらえようと、ロンはかかりつけの医師と大ゲンカしたあげく、独学で知識と情報を収集し、手当り次第に新薬を入手しては服用する。
当時、全世界の製薬会社は抗エイズウイルス新薬の開発競争に明け暮れていた真っ最中で、その中には、(この映画によれば)ATZのように極めて毒性が強く、かえって病状を悪化させるものもあった。
ロンはメキシコや日本に渡り、様々な手を使って新薬を手に入れ、自分が使うだけでなく、同じエイズ患者に販売するビジネスを始める。
その会社がタイトルのダラス・バイヤーズクラブだ。
しかし、アメリカ国内ではFDAが認可していない薬品を持ち込めば密輸、販売すれば麻薬の売人と同じ罪に問われる。
それでも、ロンは破れかぶれで始めた命がけの商売をやめようとはしなかった。
粗暴でスケベでカネにがめつく、言わば〝人間のクズ〟だった男が、生命の危機に直面して国に脅威を、国民には救いを与えるほどの存在になってゆく。
しかし、決して人格的に立派な聖人君子に脱皮するわけではなく、最後までチンピラのままというところがかえって説得力があり、清々しい感動を呼ぶ。
オスカーを獲得したマコノヒーは、21キロも減量して取り組んだこともさりながら、優しさと荒々しさが綯い交ぜになった複雑な感情表現が巧みで、実に素晴らしい。
それ以上に、ロンのパートナー、トランスジェンダーのレイヨンを演じるレトの演技にも目を見張った。
レイヨンは架空のキャラクターで、当時ロンの周辺にいた友人たちを合成してつくったそうだが、映画を見ている間は実在の人物としか思えない。
ちなみに、アカデミー助演男優賞の受賞スピーチも大変感動的だった。
この映画はエイズの問題を正面から扱った社会派の一篇であると同時に、ロンとレイヨンの友情物語であり、ラブストーリーでもある。
非常に理想的な実話の映画的昇華の一例と言えよう。
採点は85点(オススメ度A)です。
旧サイト:2014年03月7日(金)付Pick-up記事を再録、修正
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