きのう、国立西洋美術館へ『ピカソとその時代/ベルリン国立ベルクグリューン美術館展』を見に行って思い出した一冊。
ピカソを知っているか? と聞かれたら、誰でも知っていると答えるが、ピカソがわかるか? と聞かれたらどうだろう。
少なくとも、わかりますよ、と即答できる自信はぼくにはない。
しかし、この本を読むと、少しはわかるつもりですが、ぐらいは言えるようになれる(と思います)。
西欧の絵画は最初、一般市民の誰もが見られる教会の宗教画として発展し、宗教改革を経て王家の特権的鑑賞物に変わる。
それがさらにフランス革命という時代の転換によって美術品という商品に変わり、自らを主張するセザンヌ、モネら印象派の画家たちが台頭。
20世紀に入ると絵画は投機の対象となり、それとともにいわゆる前衛芸術として手法も内容も極端かつ難解なまでに先鋭化していった。
そういう新たな現代美術のムーブメントを牽引したのがピカソだったのである。
セザンヌ、ロートレック、ゴッホ、ゴーギャンら死後にしか高値がつかなかった印象派の先輩たちに比べ、ピカソは時代の寵児として脚光を浴び、巨万の富を築いて、華麗な女性遍歴を繰り返した。
だが、そうしたピカソの絵は美しいのか、100億円で売り買いされる現状は芸術のあり方として正しいと言えるのだろうか、と著者は問う。
著者は国展で新人賞を受賞した版画家で、中学生時代にピカソに憧れた過去を持つ。
長じて自分が徒弟制度の下で鍛え上げられ、自らも芸術家として世に出るようになり、自省の念とともに「ピカソとは何か」を語ったのがこの本だ。
全篇に渡ってピカソの人間性には批判的ながら、才能だけは認めていて、「しょうがないオッサンだな」とでも言いたげな屈折した愛情が行間に滲んでいる。
美術史の勉強になり、エンディングはなかなか感動的で、絵なんかに興味はない、という人にも面白く読めること請け合いです。
旧サイト:2012年12月24日(月)付Pick-up記事を再録、修正
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