2017年のWOWOW〈新海誠特集〉で放送された中では最も長尺、かつエンターテインメント色の強い作品。
随所で宮崎駿のファンタジー・アニメを彷彿とさせる場面や演出が目につくが、これは新海自身が「ある程度自覚的にやっている部分もある」と発言している。
当初の舞台は『君の名は。』(2016年)や『秒速5センチメートル』(2007年)を彷彿とさせる北関東か中部地方と思しき山間の村。
母親とふたりで暮らしていたヒロインの少女・渡瀬明日菜(声、以下同:金元寿子)はある日、鉄橋の上でヒグマのように巨大な化け物に襲われ、シュン・クァーナン・プラエセス(入野自由)という少年に救われる。
シュンはアガルタという異世界からやってきたと語り、明日菜と惹かれ合うが、ほどなくして死体となって発見された。
その直後、明日菜は学校の新任教師・森崎竜司(井上和彦)から、アガルタとは日本の神話における黄泉の国のようなところであり、そこでは現世で亡くなった死者が蘇るのだと聞かされる。
そして、明日菜の前にシュンの弟・シン(入野自由=2役)が現れ、明日菜は森崎と一緒にアガルタの世界へ足を踏み入れることになる。
森崎は愛妻のリサ(島本須美)を亡くしており、アガルタの魔法で彼女を死後の世界から蘇らせたかったのだ。
こうして後半は明日菜、シン、森崎の3人がアガルタを巡るファンタジー・アクションへと移行するのだが、前半のノスタルジックな雰囲気に満ちていたシークェンスとのギャップが大きく、僕としてはなかなかノっていけなかった。
森崎がアガルタについて、黄泉の国のようなところだと説明していたのに、いざ来てみたら現実によくある村社会とあまり変わらなくて、神秘性に乏しい。
また、それほどあからさまに形態が似ているわけではないが、アガルタの夷族や巨大な霊体は『もののけ姫』(1997年)のダイダラボッチ、神々が乗る船シャクナ・ヴィマーナの変身形は『風の谷のナウシカ』(1984年)の巨神兵を想起させ、もっとオリジナリティを出してほしかった。
エンディングもいまひとつ歯切れが悪く、『君の名は。』のようなカタルシスを感じさせるまでには至っていない。
結局、ジブリ的な世界観と新海誠の作家性は水と油の如く、共通点があるようでも相容れなかった、ということだろうか。
本作を作ることで得るものがあったのか、あるいは何らかの区切りがついたからか、2年後に公開された『言の葉の庭』(2013年)以降、新海ワールドはより深化し、スケールアップしていった。
オススメ度C。
旧サイト:2017年12月30日(土)付Pick-up記事を再録、修正
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨 D=ヒマだったら😑