馬術がオリンピック競技のひとつであることは知っていても、障害飛越競技という種目の内容や名前はこの映画を観るまで知らなかった、という日本人は多いのではないか(僕もそうです)。
欧米では大変な人気らしく、フランス選手権、ヨーロッパ選手権、世界選手権などはもとより、オリンピックでも1984年ロサンゼルス、1988年ソウルで大勢の観客が沸き返る光景が描かれている。
本作の主人公ピエール・デュラン(ギョーム・カネ)、彼の愛馬ジャップルーは1980年代、実際にそうした国際大会に出場し、数々の勝利を収めたフランスの名コンビ。
本作が僕のような馬術を知らない素人にも楽しめ、迫力とリアリティを感じさせる最大の要因は、何と言ってもカネ自身が吹き替えなしで馬に乗り、障害飛越競技を演じているところにある。
カネは両親が馬のブリーダーだったことから、自身も俳優に転身した20代前半まで騎手をしており、そうした実生活の経験を反映させるべく、自ら本作の脚本も書いている。
ピエールの父親セルジュ(ダニエル・オートゥイユ)もまた厩舎と騎手養成学校を経営していた人物で、カネが自分の半生と重ね合わせながらシナリオを練り上げていったことが察しられる。
セルジュは一人息子のピエールを一人前の騎手にしようと幼少期から英才教育を施すが、成長するにつれて反発を覚えるようになったピエールは、馬に乗り続けながらも弁護士になることを選択。
このあたり、内心の寂しさを押し殺して「おまえの好きなことをすればいい」と理解を示す父と、いたずらに感情的になることなく自らの道を歩んでゆくピエールの対峙する場面が胸に沁みる。
そうしたセルジュ家に、気難しい性格で、誰もが乗りこなすのに困っている4歳馬ジャップルーが持ち込まれたことから、一度は馬術を捨てたピエールの心に、微妙な変化が生じる。
ジャップルーは一見、いかにも小柄で貧弱、どう見ても競技には向いていないとピエールも見下していたのだが、何度か乗っているうち、類い稀な跳躍力を持つ馬であることがわかってくる。
自分は結局、馬とは縁を切れないと悟ったピエールは、騎手として生きていくことを決意。
フランス選手権で4回連続ノーミスの演技を見せ、一躍将来を期待されるホープになるくだりは、どこかフィギュアスケートの羽生結弦を連想させる。
その後、不注意による失格、フランス代表チーム監督との諍い、大舞台での敗退と、様々な挫折を味わいながら、そのたびに這い上がっていくピエールとジャップルーの姿を、本作はいかにもフランス映画らしいしっとりとしたタッチで描いていく。
とくに、息子の一番の晴れ姿を見ることなく、父親が突然逝ってしまう場面にはやはり泣かされた。
監督のクリスチャン・デュゲイは監督デビュー当時、『スキャナーズ2』(1991年)や『スキャナーズ3』(1992年)のようなB級SFホラーで才気の片鱗を見せていたが、本作ではすでに円熟の域に達している。
映画史的にも珍しいフランス製スポーツ映画、馬術に興味がない人にもぜひ観てほしい。
オススメ度A。
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨 D=ヒマだったら😑