米ソ冷戦時代の1957年、実際に起こったU-2撃墜事件と東ベルリンで行われた人質交換交渉を映画化した作品。
劇場公開された6年前、トム・ハンクス主演のスピルバーグ監督作品とあり、当然食指が動いたのだが、いまさら冷戦時代でもないだろう、と見送ってしまった。
ハンクス演じる主人公ジェームズ・ドノヴァンは、ニューヨークの大手法律事務所の共同経営者のひとりで、刑事事件担当から保険会社専門に鞍替えした弁護士。
それが、政府と法曹界の依頼により、ブルックリンでFBIに逮捕されたソ連のスパイ、ルドルフ・アベル(マーク・ライランス)の弁護人に選任されてしまう。
このドノヴァンが初登場する場面、交通事故の保険金を請求するの代理人弁護士とのやり取りの中で、彼らは「依頼人」を”my guy”,”your guy”と表現している。
相手の弁護士が被害者は5人だから5人分の保険金を要求すると、ドノヴァンは「5人で1件だ。10件あっても1件だ」=”one, one,one”(1件はどれだけあっても1件だ、というような意味か)と主張。
この2つの言葉が本筋に入ってからの重要なキーワードになる、という布石の打ち方がうまい。
ドノヴァンは当初、”my guy”という言い方を嫌い、保険専門の弁護士らしく、あくまでビジネスライクな”my client”という言い方にこだわり、アベルに対しても距離を置いているのだが、次第に彼を”my guy”と呼ぶようになっていく。
また、ソ連の捕虜となったU-2操縦士フランシス・ゲイリー・パワーズ(オースティン・ストウェル)とアベルとの交換交渉がまとまりかけていた矢先、ドノヴァンはもうひとり東ベルリンに拉致されていたイェール大学の学生フレデリック・プライヤー(ウィル・ロジャース)も同時に解放するよう訴える。
このとき、ドノヴァンが改めて繰り返す”one, one,one”で、交換はアベルとパワーズの1対1ではなく、プライヤーも加えた1対2だ、この交渉は3人そろって初めて「1件」なのだ、というわけだ。
当初、ソ連のスパイの弁護人を引き受け、一般市民はおろか家族からも反発を受けながら、人質交換交渉を成功させるや、国民的英雄となる、という展開はいかにもハリウッド映画的ながら、脚本のディテールが日本人にも理解できるようきちんと描き込まれているので空々しく感じられない。
シナリオを書いているのはあのコーエン兄弟(マット・チャーマンと共同)である。
それにしても、ハンクスはこういう「アメリカの良心」を代弁する実務家をやらせると本当にうまいね。
赤狩りの時代、ゴリゴリの反共主義者で、非米活動委員会でも積極的に証言していたウォルト・ディズニーが創始した会社が、いまになってこういう映画を配給していることにも時代の流れを感じる。
オススメ度A。
旧サイト:2017年06月29日(木)付Pick-up記事を再録、修正
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