今日では問題視されそうな差別的表現が多いことから、長らく絶版となっていた有吉佐和子の埋もれた代表作のひとつ。
2020年に河出文庫として復刻されると静かな評判を呼び、21年12月3日、NHK朝のニュース番組『おはよう関西』(おはよう日本)で紹介され、一時ベストセラーとなった。
日本の敗戦直後、黒人将校専用のキャバレーで働いていた日本人女性・笑子が、常連客の伍長トムと深い仲になる。
当初は、トムが米軍将校ならではのコネを使い、様々な物資を土産に持ってくることから、笑子の母親もこの交際を歓迎していた。
しかし、いざ笑子がトムと結婚しようとすると、母親は手のひらを返したように、「黒ン坊」の子供が生まれては世間体が悪い、それだけはやめてくれと言い募る。
笑子はそんな母親の猛反対を押し切ってトムと結婚し、肌が黒く、縮れ毛の娘メアリイを出産する。
その娘を連れて街を歩いていたとき、周囲の好奇と偏見の眼差しを一身に浴びた笑子は、一般社会における人種差別というものを初めて、まざまざと実感。
自分、及び自分の分身である子供が差別の対象、という以上にいっそ人間以外の生物のように見られたとき、人はどのような感情を覚えるものか、有吉の筆致は冷酷なほど的確に伝えてくる。
もはや日本では暮らせないと悟った笑子は、先に帰国していたトムを頼り、米軍の輸送船でアメリカに渡る。
船倉に押し込められ、自分と同じウォーブライド(戦場花嫁)となった女性たちと励まし合ううち、一種独特の絆で結ばれるこのくだりも印象深い。
終戦直後のこととて、ニューヨークに行くだけでも現代とは比べ物にならない苦労を重ね、ようやくトムの待つハーレムに辿り着いた笑子は、貧民窟のような半地下の家屋に愕然とする。
しかも、軍隊を離れたトムは、アメリカの過酷な差別に耐えかね、かつての精気も労働意欲もすっかり失っていた。
それでも黒人だけに性欲だけは旺盛で、日本人レストランのウエイトレスとして働き、家計を支えている笑子を次々に妊娠させる。
育児と仕事を両立させるため、輸送船で知り合った〝ウォーブライド仲間〟を頼るあたり、いったい笑子はどうなることかとハラハラしながら、先へ先へと読み進めないではいられない。
そうした過酷な状況の中で、白人に差別されているトムたち黒人も、実はプエルトリカンを最低の人種として蔑視していることを、笑子は知る。
白人男性と日本人女性夫妻の家で住み込みのメイドとして働くようになり、やっと差別とは縁のない職場を得たかとホッとしていると、そのアッパーミドルの住宅街にはユダヤ人に対する差別感情が渦巻いていた。
日本とアメリカで様々な差別の実相に直面し、肌の色が異なる子供たちを育てる過程で、笑子はある種の悟りの境地に至る。
ネタバレになるので書けないが、このエンディングから受けた感動とカタルシスがまた、非常に鮮烈、かつ独特だった。
アメリカ社会では白人による黒人差別がいまなお続いており、黒人の側から告発したハリウッド映画も多い。
しかし、この有吉佐和子の小説のように、黒人もまた他人種(プエルトリコ人)を見下しており、白人と同様のレイシストであることを指摘した作品は記憶にない。
これこそはまさに、黒人のウォーブライドとなった日本人女性だけが気づき、持ち得る視点。
この小説が英訳されているかどうかは知らないが、アメリカ人が読んだらどのような印象を受けるのだろう。
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