本作の主役ヒュー・ハーはもともと、15歳にして全米ナンバーワンとまで評されたロッククライマーだった。
しかし、17歳だった1982年1月、クライミング・パートナーのジェフ・バッツァーとともに登ったニューハンプシャー州ワシントン山(標高1917m)で遭難し、凍傷によって両足とも膝下17㎝から下を切断。
ロッククライミングの天才と呼ばれた若者が17歳で両足を失い、医者に「もう登山は無理だ」と言われた時の心中はいかばかりだったか、僕などにはとても想像できない。
焼石膏(しょうせっこう)でできた昔ながらの義足をつけられたヒューは、石膏が割れてしまうから歩く時も必ず松葉杖を使うように、と医者に言われる。
ヒューはその言葉に逆らい、ロッククライミングを再開するため、岩盤を登るための義足を独自に考案。
これを使って兄とともに通い慣れたペンシルバニア州の崖を登る映像に、僕はこの体験からテクノロジーの可能性に希望を抱くようになった、というヒューの言葉がかぶさる。
自分について何も知らない医者の言うことは間違っていた。
いま、クライミング用の義足をつけただけでここまで登れるのなら、数学や物理学、人体工学を勉強すれば、もっと性能の高い義足を作れるのではないか、とヒューは考えるようになる。
ヒューがMIT(マサチューセッツ工科大学)のメディアラボで義足の研究に没頭していた2013年4月15日、ボストン・マラソンで爆弾テロ事件が発生し、多数の参加者が現場で腕や足を切断、もしくはのちに切断しなければならなくなった。
そうした手術に関わった形成外科医マシュー・カーティは、当時は切断の技術がいまほど進んでおらず、切断後も義肢をつけるのに生かせる部分を残そうという発想や技術がなかった、と証言。
このカーティ医師との出会いが、ヒューが取り組んでいた義肢の研究開発をさらに前進させることになる。
残された筋肉の動きをアシストするパーツを切断部分に取り付け、義足のモーターと連動させられれば、もっと本当の足の動きに近づけられるはずだ。
ヒューとカーティ医師の研究はCGとアニメで表現されており、素人にもわかりやすく表現されている(それでも何度か再生し直さないと呑み込めない部分もあったが)。
彼らの義肢の研究はまだまだ途上ながら、「20年後には人類の姿はいまとはまったく違うものになっているかもしれません」というヒューの言葉は一定の説得力を感じさせた。
いつものことながら、こういう意義深い作品がオリジナル版から30分以上もカットされているのはまことに残念。
何とかなりませんか、NHKさん。
オススメ度A。