『ベイビー・ブローカー』😊

브로커/Broker
130分 2022年 韓国 日本配給:ギャガ
@109シネマズ木場 スクリーン5 2022年7月6日13:10〜

最近、実家への電話は1週間以上の間を空けないように心がけている。
とくに注意しているのが映画を観るときで、劇場での鑑賞中はいつもスマホの電源を切っているため、なるべくその前の時間帯、もしくは前日に親のケータイを鳴らして無事を確認する。

というのも、以前、約3時間もの長い映画を観終わったあと、スマホの電源を入れたら、その日の午後に父親が緊急入院したという電話が何本も入っていたからだ。
幸いにして命に別状はなかったものの、ひとり息子としては当然心配でならず、あらかじめ連絡を取っておけば父親や看護師に何度も電話をかけさせてしまうこともなかっただろう、と大いに反省したわけです。

だから、この『ベイビー・ブローカー』を観に行ったきのうも、出かける前の午前中、まず実家に電話を入れた。
母親の声は明るく、父親の声は淡々としていて、どちらも体調はよさそうだったが、これといった話題もないので、会話も5分ぐらいしか続かない。

それでも、とりあえず一安心して、ネットで109シネマズ木場の午後1時10分からの回のチケットを購入。
なぜダラダラとこんな前置きを書いているかというと、この映画が是枝裕和監督が一貫して追求し続けている家族の絆をテーマにした作品だからである。

タイトルのベイビー・ブローカーとは、子供を育てられない母親が赤ん坊を入れる「赤ちゃんポスト」(映画での名称は「ベイビー・ボックス」)から赤ん坊を盗み出し、秘かに子供のいない夫婦に転売する人身売買の仲介者のこと。
「赤ちゃんポスト」は2000年にドイツに設置されたのが始まりで、7年後の2007年には日本にも熊本慈恵病院の「こうのとりのゆりかご」が登場し、この映画の舞台となる韓国には2009年以降3軒のポストが設けられ、施設の職員が預けていった母親に代わって赤ん坊を育てている。

預けた母親がのちに子供を引き取りに来るケースもあるが、ほとんどの場合は預けられたまま、成長すると孤児院のような施設に入れられ、義務教育を受けて社会に出ていく。
日本の場合、「赤ちゃんポスト」に預けられる人数は年に数人に留まっているが、韓国では様々な事情により、赤ん坊の人数が毎年200人以上、年によっては300人近くに上ったこともあり、大きな社会問題になっているという。

釜山でクリーニング屋を経営している主人公ハ・サンヒョン(ソン・ガンホ)はヤクザから多額の借金をしており、ベイビー・ブローカーの仕事で養子縁組を成立させ、貰い手から大金を得ようと目論む。
赤ん坊の相場は男の子が1000万ウォン(約100万円)、女の子が800万ウォン(約80万円)。

教会のベイビー・ボックスから赤ん坊ウソンを盗んできた若い相棒ユン・ドンス(カン・ドンウォン)もまた、生まれたばかりの頃にこのボックスに預けられ、施設で育った過去を持つ。
そこへ、一度は子供を捨てたウソンの母ムン・ソヨン(イ・ジウン)が戻ってきて、サンヒョンとドンスが赤ん坊を売り渡す旅に同行することになる。

彼らにドンスを慕う施設の子供、やはりボックスに預けられた少年ヘジン(イム・スンス)が加わって、釜山から盈徳、浦項、江陵を経てソウルや仁川まで、ロードムービーのようにストーリーが展開。
その背後では、かねてサンヒョンに目をつけていたふたりの刑事、アン・スジン(ペ・ドゥナ)、イ(イ・ジュヨン)が尾行を続けていた。

観ているうち、サンヒョンやドンスがウソンに情が湧いて手離し難くなり、最初はツンケンしていたソヨンがサンヒョンたちに心を開いていくにつれ、こちらも人身売買に手を染めている彼らにだんだん共感を覚えるようになる。
僕としては、幕切れ間近の観覧車の場面、ドンスとソヨンのやり取りが印象に残った。

そして、是枝作品の落としどころはどれもそうなのだが、こう持ってきたんならこうこなくちゃ、という予定調和的な結末を求める観る側の期待をある程度満足させつつ、それをほんのちょっぴり超えるある種の苦味、観る側の想像力に任せる含みを持たせる。
そういうギリギリまで練り上げられたシナリオと演出は今回もさすが! でした。

俳優はみんな好演で、ソン・ガンホの上手さは改めて強調するまでもないが、主要キャラクターの中では一番脇に位置するイ・ジュヨンがなかなかの存在感を発揮していることも強調しておきたい。
彼女が女子プロ野球選手を演じた『野球少女』(2019年)は野球好きには必見です。

採点は85点。

2022劇場公開映画鑑賞リスト
※50点=落胆😞 60点=退屈🥱 70点=納得☺️ 80点=満足😊 90点=興奮🤩(お勧めポイント+5点)

『トップガン マーヴェリック』MX4D(2022年/米)85点
7『PLAN75』(2022年/日、仏、比、華)85点
6『トップガン マーヴェリック』IMAX2D(2022年/米)85点
5『シン・ウルトラマン』(2022年/東宝)80点
4『英雄の証明』(2021年/伊、仏)80点
3『THE BATMAN−ザ・バットマン−』(2022年/米)80点
2『ドライブ・マイ・カー』(2021年/ビターズ・エンド)90点
1『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021年/米)90点

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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