プロ野球界とマスコミ業界には昔ながらの不文律があり、レギュラーシーズンと日本シリーズの開幕戦では、われわれ報道関係者は背広にネクタイで正装する決まりになっている。
きょうの横浜スタジアムでも、古株のベイスターズ関係者がスタンドに集まった記者たちを眺めながら、「いつもとは風景が違いますね、みなさん、ビシッとしてるから」と目を細めていた。
こちらとしても、また1年間、球界にお世話になるスタートの日なので、スーツ姿で取材現場に立っていると、自然といつもより背筋が伸びるような気がする。
商売柄、ふだんは一般企業の勤め人のように毎日背広を着る習慣がないので、余計に「きちんとしなければ」と意識してしまうのかもしれない。
ただし、これはあくまで運動記者クラブに加盟しているメディアの慣習であって、必ずしも取材者全員が正装しなければならないわけではない。
実際、きょうもWebメディアのライターはカジュアルな普段着姿だったし、僕も記者クラブ非加盟の日刊ゲンダイの記者だった若いころは、デニムにブルゾンとか、遊び着みたいな身なりで開幕戦を取材したりしていた。
当時は何かと粋がっていたので、周囲の先輩記者が背広ばかりだからと、あえて「おれは好きな格好で取材させてもらう」と居直っていたところもある(子供ですね)。
しかし、そうした出で立ちをするには無理がある年齢に達し、開幕戦ぐらいはネクタイだけでも締めるようになった40代前半のころ、会社を辞めてしまった。
2010年に東スポで連載原稿を書くようになってからは、開幕戦は必ずスーツで取材している。
寄る年波のおかげで太ってきたため、新しいブルックスブラザースの上下も買い、きょう、34年目の開幕戦、DeNA-広島の取材にもこの一張羅を着てハマスタへ取材に行った。
こういう文化が根付いているのは、僕がこの仕事を始めたころよりも遙か昔から、開幕の日はプロ野球界の元旦と位置づけられているからだ。
実際、かつては監督や主力選手に「あけましておめでとうございます」と挨拶している記者やアナウンサーが少なくなかった。
ただ、この慣習は廃れ始めて久しく、いまでは取材現場で「おめでとうございます」という声を聞く機会は滅多にない。
長嶋さんが巨人の監督だったころ、「われわれの(現役)時代は必ずおめでとうございますって言ったもんだけどね、きょう(開幕)はお正月なんだからね」と話していたことを思い出す。
しかし、今年各球場で行われた開幕セレモニーは、昔とは比べ物にならないくらい、格段にショーアップされた。
西武-オリックス戦が行われたベルーナドーム近辺の上空にはブルーインパルスが飛んだり、ハマスタではロックミュージシャンMIYAVIがライヴパフォーマンスを披露したりと、正月どころか、盆と正月が一緒に来たような大騒ぎ(古いか)。
今年はNPBの方針により、各球場で入場者数の上限が撤廃されたため、どこも大勢のファンが詰めかけていたらしい。
とくにハマスタでは2年前に増設した2812席のレフトウィング席に初めてお客さんを入れたため、この球場史上最多の3万2436人を記録した。
レフト側だからさぞかし真っ赤に染まるだろうと思ったら、意外にも青いユニフォームを着たお客さんのほうが多かった。
コロナ禍で球場に来られなかった2年間、ベイスターズファンはこの日を待っていたんだろうな、と思わせる光景だった。
しかし、結果は3-11でDeNAが広島に大敗。
カープは開幕スタメン7番に抜擢されたドラフト6位新人・末包が球団史上初のデビュー戦で3安打猛打賞を記録したのをはじめ、3安打1打点の坂倉、2安打2打点の会沢、2安打1打点の小園、さらに開幕投手の大瀬良も6回3分の2で3失点といまひとつながら、打席で1安打1打点と、働くべき選手がしっかり働いていた。
それに引き換えベイスターズは…いや、きょうはこれ以上言うまい。
桑原、佐野、楠本、牧、知野と、なかなかつながらなかったものの、それぞれ1安打して〝開幕〟はした。
明日はもっといいゲームを、せめて去年とは違うところを見せてほしい。
それに、願わくば、もっと試合時間の短いゲームを(きょうは3時間31分)。