最近観たコリアン・ミステリーの中では、最も記憶にとどめておきたい一篇である。
忠清南道・大川市(実際は保寧市)で営まれた採石所所長アン・テスの葬儀の最中、弔問客5人が農薬入りのマッコリを飲み、3人が死亡、2人が重症に陥る、という事件が起こる。
かろうじて一命を取り留めた被害者のひとりが大川市のチェ・イネ市長(ホ・ジュノ)だったことから、連日マスコミに全国で報道されるほどの大事件に発展。
そうした中、長年テスのDVによって虐待されていた未亡人ファジャ(ペ・ジョンオク)が容疑者として逮捕される。
しかし、高齢のファジャは認知症を患っており、とても大量殺人を計画できるような状態ではない。
にもかかわらず、裁判で強引にファジャを有罪にしてしまおうとしているシン検察部長(ユン・インジェム)の態度に不信感を抱いたアン・ジョンイン(シン・ヘソン)は、自らファジャの弁護人となって真相の究明に乗り出す。
ジョンインはファジャの娘で、かつて父アン・テスの虐待に耐えかねて家出同然で親元を離れ、独力でソウル大学法学部を卒業し、若手の美人弁護士としてマスコミに注目されるほどの著名人。
しかし、ファジャはもはやジョンインが誰だかわからず、ジョンイン自身も郷里ではやっかみの対象となり、様々な圧力や嫌がらせを受ける。
一方、大川市にカジノを誘致し、支援者から選挙資金を得て次期道長選に出馬しようとしていたチェ市長は、シン部長以下検察庁を抱き込み、ファジャにすべての罪を着せて裁判を決着させようとしていた。
文字通り八方塞がりの状況の中、果たしてジョンインは母ファジャの無罪を立証し、チェ市長の企みを暴くことができるのか、監督・脚本を手がけたパク・サンヒョンはエネルギッシュな演出と巧みな話術で引っ張っていく。
とりわけ観ている者の胸を打つのは、認知症のジョンインと、家族を捨てた悔恨に苛まれているファジャが拘置所でやり取りをする場面だろう。
サンヒョン監督は本作を撮るに当たり、僕も大好きなポン・ジュノ監督の『母なる証明』(2009年)を意識したそうで、あの傑作がこういう後継者を生み出したのかという感慨も覚えた。
オススメ度B。
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※再見、及び旧サイトからの再録
16『ズーム/見えない参加者』(2020年/英)C
15『アオラレ』(2020年/米)B
14『21ブリッジ』(2019年/米)B
13『ムニュランガボ』(2007年/盧、米)C
12『ミナリ』(2020年/米)A
11『バイプレイヤーズ もしも100人の名脇役が映画を作ったら』(2021年/東宝映像事業部)C
10『死霊の罠』(1988年/ジョイパックフィルム)C
9『劇場版 奥様は、取扱注意』(2021年/東宝)C
8『VHSテープを巻き戻せ!』(2013年/米)A
7『キャノンフィルムズ爆走風雲録』(2014年/以)B
6『ある人質 生還までの398日』(2019年/丁、瑞、諾)A
5『1917 命をかけた伝令』(2020年/英、米)A
4『最後の決闘裁判』(2021年/英、米)B
3『そして誰もいなくなった』(2015年/英)A
2『食われる家族』(2020年/韓)C
1『藁にもすがる獣たち』(2020年/韓)B