こういう映画の感想を率直に述べると、演出や脚本や俳優がどうのこうのと言う以前に、やっぱり家族を持つのは大変なんだな、でも家族を作っておけばよかったかなと、独り暮らしの58歳男性として、大変身につまされる思いがする。
とくに本作には母方のおばあちゃんが登場し、最初はとても元気だったのに途中から病気になって、娘や孫に面倒をかけることになる、というくだりが身近に感じられて、余計に切なくなった。
舞台はレーガンが大統領だった1980年代のアメリカ・アーカンソー州の田舎町。
ここに地元の不動産屋も見離している荒地を買った韓国系移民ジェイコブ・イ(スティーヴン・ユアン)が、妻モニカ(ハン・イェリ)、娘アン(ノエル・ケイト・チョー)、息子デヴィッド(アラン・キム)を引き連れてやってくる。
ジェイコブはヒヨコの雌雄を判別する鑑定士で、地元の孵卵場で日銭を稼ぎながら、購入した土地を開墾して様々な作物を栽培し、農場主となって大金を稼ごうと夢見ていた。
しかし、同じヒヨコ鑑定士のモニカは、自分たちが暮らすトレーラーハウスを見た途端に「約束が違うじゃない」と拒否反応を示し、最寄りの病院まで車で1時間もかかる、近所付き合いがないから子供たちが礼儀を覚えない、などと不満を並べ立てる。
自分たちが仕事に出ている間、アンとデヴィッドの世話をしてもらうため、モニカは自分の母親スンジャ(ユン・ヨジュン)を呼び寄せるが、デヴィッドはなかなかなつかず、「おばあちゃんは臭い」「韓国の匂いがする」などと文句を言う。
ジェイコブの農場経営も一向に軌道に乗らず、最初に掘り当てた地下水脈が干上がってしまい、近所の水道管からこっそり水を調達していたら、家の水道を止められてしまった。
やがてデヴィッドには心臓の持病があることがわかり、スンジャも突然体調を崩した中、病院にまでプレゼン用の野菜のサンプルを持ち込むジェイコブに、モニカは怒りを爆発させる。
この場面では、引っ越しを主張するモニカに対して、「父親が成功するところを子供たちに見せてやりたいんだ」というジェイコブのセリフが印象に残る。
と同時に、この切羽詰まった状況で、金を工面するアテもないのに亭主にそんな夢を語られても、奥さんは到底納得できないだろうな、と自分がフリーになったころに結婚話をご破算にした経験を思い出した。
ミナリとは野菜のセリのことで、このタイトルの意味と象徴しているものが明らかになるラストは感動的でジーンとするものの、家族っていいなあと、素直には言えない余韻が残る。
そうした複雑な感想の一切を含めて、しばらく忘れられないだろう秀作。
僕には妻も子供もいないから、せめて親だけは大切にしなければならない、と改めて思いました。
本作の内容には監督・脚本を手がけたリー・アイザック・チョンの自伝的要素が詰め込まれており、制作前に一時映画界からの引退を考えていた彼は、第93回アカデミー賞監督賞と脚本賞にノミネートされている。
撮影ラクラン・ミルンの瑞々しい映像、音楽エミール・モッセリの静謐な旋律も非常に印象的だった。
オススメ度A。
ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2022リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨 D=ヒマだったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録
11『バイプレイヤーズ もしも100人の名脇役が映画を作ったら』(2021年/東宝映像事業部)C
10『死霊の罠』(1988年/ジョイパックフィルム)C
9『劇場版 奥様は、取扱注意』(2021年/東宝)C
8『VHSテープを巻き戻せ!』(2013年/米)A
7『キャノンフィルムズ爆走風雲録』(2014年/以)B
6『ある人質 生還までの398日』(2019年/丁、瑞、諾)A
5『1917 命をかけた伝令』(2020年/英、米)A
4『最後の決闘裁判』(2021年/英、米)B
3『そして誰もいなくなった』(2015年/英)A
2『食われる家族』(2020年/韓)C
1『藁にもすがる獣たち』(2020年/韓)B